研究課題/領域番号 |
26560058
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古瀬 充宏 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30209176)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 注意欠陥・多動性障害 / マウス / 系統 / アミノ酸 / ハムスター / チロシン / ドーパミン / テトラヒドロビオプテリン |
研究実績の概要 |
注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、多動性、衝動性、不注意を症状の特徴とする発達障害もしくは行動障害で、多くは幼少期に集中困難、過活動、不注意といった行動として現れる。本研究ではアミノ酸代謝の差異をそれぞれハムスターの系統間ならびにマウスの系統間で比較し、多動性との関連性を明らかにすることで、ADHDの発症原因を追及することを目的とした。 ジャンガリアンハムスター(以下、ジャンガリアン)とロボロフスキーハムスター(以下、ロボロフスキー)は同属でありながら、ジャンガリアンは人に慣れやすく大人しい一方で、ロボロフスキーは人に慣れにくく動き回ることが知られている。ロボロフスキーを多動性モデル動物として有用であると考え、D型も含めたアミノ酸代謝の比較や多動性との関連性について検討することを目的とした。 ジャンガリアンとロボロフスキーで、明期と暗期に全脳をサンプリングしD-およびL-アミノ酸の分析を行った。ジャンガリアンに比較してロボロフスキーで鎮静効果があるL-セリンおよびNMDA受容体のコアゴニストとなるD-セリン含量が有意に低いことが判明した。 次いで、ICRマウス、CBAマウス、C57BL/6Jマウスを用い、オープンフィールドテスト(OFT)を行った。自発運動量を示すOFTの総移動距離の値がICRマウスにおいて他の2系統よりも有意に高く、ICRマウスは多動性を示すことが確認された。また、行動調節部位の小脳においてドーパミン含量の値がICRマウスで低く、逆に、その前駆体であるチロシン含量は高値を示した。 上記より、多動性に関連するアミノ酸代謝は種差や系統差など遺伝的背景の影響を大きく受けることが判明し、多動性改善にむけて摂取が必要なアミノ酸の種類は遺伝的背景を加味しなければならないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究では、マウスの自発運動量には明らかな系統差があり、ICRマウスで最も多いことが判明した。着目したチロシンに関してはICRマウスで低いのではなく、むしろ高いことが明らかとなった。しかし、チロシンから産生されるドーパミンはICRマウスで最も低かった。これはチロシンがドーパミンに速やかに代謝されない、すなわちチロシンヒドロキシラーゼの酵素活性が低いことを示唆した。 さらに、ロボロフスキーハムスターにおいては鎮静作用を有するアミノ酸の脳内含量が低いことを認めた。 このようにADHD発症要因とその対応策定期の可能性を示唆したことから当初の計画以上に進展したと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
26年度に得られた結果は、ICRマウスではチロシンからドーパミンへの代謝が低い可能性を示唆している。そこで、ICRマウスの脳内ドーパミン含量をさらに高めるために、ドーパミンの前駆体であるL-DOPAの投与実験を考えている。また、チロシン代謝酵素であるチロシンヒドロキシラーゼの酵素活性を高めるため、その補酵素であるBH4を投与する。投与後のOFTでの行動、海馬や小脳でドーパミン代謝系のDAならびにその代謝産物への影響を調査する。さらに、チロシンヒドロキシラーゼの基質であるチロシンとBH4とを合わせて投与する予定である。また、海馬でのDA値の上昇が学習行動に影響を与える可能性についても検討する。 一方、ロボロフスキーについてはセリンの給与が多動性を改善できるかについても検討を加える。この検討においては、母獣の飼料にセリンを配合したり、離乳時からセリンを飼料に配合することで、様々な段階における多動性改善を目指す。
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