研究課題/領域番号 |
26560061
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
島村 裕子 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (60452025)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 黄色ブドウ球菌 / ブドウ球菌エンテロトキシンA / カテキン / 遺伝子伝播 |
研究実績の概要 |
【方法】ブドウ球菌エンテロトキシンA (SEA) 分子とポリフェノール類として、アップルフェノン (AP; 主成分はプロアントシアニジン)、(-)-epigallocatechin gallate (EGCG) および6種のEGCG誘導体との相互作用をWestern blot解析およびBiacoreを用いて調べ、SEAと相互作用した試料については、SEAの毒素活性発現部位に特異的に結合する4種類の抗ペプチド抗体を用いてWestern blot解析し、これら試料が毒素活性発現部位に結合しているか調べた。また、in silicoによるドッキングシミュレーションおよびペプチドアレイを用いて、試料とSEAとの結合部位を調べた。さらに、SEA遺伝子伝播の作用機序を解明するために、SEA産生株No.29株とSEA非産生株No.77株を透析共培養した際のNo.29株の菌体内代謝物について、LC/MSを用いて解析した。 【結果・考察】Western blotおよびBiacoreによる解析の結果、AP、EGCGおよびEGCG誘導体であるtheasinensinは、SEAと結合親和性を示した。また、APおよびEGCGは、SEAの毒素活性発現部位であるA-6領域に強い相互作用が認められた。ドッキングシミュレーションおよびペプチドアレイ解析により、SEAのA-2、A-3およびA-6領域のアミノ酸がEGCGと相互作用し、特にA-6領域の91番目のチロシンとEGCGのガロイル基の3”位の水酸基が水素結合することが予想された。また、No.29株の菌体内代謝物のLC/MS解析より、溶菌誘導物質はNo.29株の自己溶菌酵素を活性化していることが推察された。溶菌誘導物質の性状について調べたところ、No.29株の非存在下においても産生される分子量3000以下のタンパク性の低分子物質であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SEAとポリフェノール類の分子間相互作用についてBiacoreを用いて解析するだけでなく、in silicoによるドッキングシミュレーションおよびペプチドアレイを用いて、より詳細に解析することができた。また、SEA産生株とSEA非産生株を透析共培養した結果、菌体同士の接触無しに、SEA産生株の溶菌およびSEA非産生株へのSEA遺伝子伝播が起こることが示唆され、新たな知見を得ることができた。今後、主成分分析により抽出された未同定の化合物の同定を行い、No.29株の溶菌のメカニズムについて明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、SEAとポリフェノール類がどのように相互作用しているのか、その作用機序を追及するとともに、SEA遺伝子伝播およびポリフェノール類によるSEA遺伝子伝播抑制の作用機序の解明を目指す。そこで、これらの作用機序を明らかにするために、主に以下の3つについて研究を進めていく予定である。 ・SEAと13Cでラベル化したカテキン類の相互作用についてNMR等を用いて調べ、SEAとポリフェノール類がどのように相互作用しているのか明らかにする。 ・No.29株とNo.77株を共培養した際のNo.29株の菌体内代謝物およびNo.77株の菌体外代謝物について、LC-MS/MSを用いたメタボローム解析を行い、SEA遺伝子伝播発現機構の解明に資する代謝物の情報を得る。 ・SEA遺伝子が伝播するNo.77株とSEA遺伝子が伝播しない菌株のゲノムを解読し、その差からSEA遺伝子伝播機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポリフェノールによるSEA遺伝子水平伝播の抑制効果の検討を行うにあたり、当初の計画では、ポリフェノール類のバイオフィルム形成抑制能とSEA遺伝子伝播抑制能との関連性を明らかにする予定であった。しかし、研究過程で、菌体同士の接触無しに、SEA産生株の溶菌およびSEA非産生株へのSEA遺伝子伝播が起こることが示唆され、新たな知見を得ることができた。そのため、当初の計画に加え、SEA遺伝子伝播の作用機序を詳細に検討するため、菌体内および菌体外代謝物のメタボローム解析を加える必要があると判断し、購入予定であった試薬や機器の内訳を変更したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、研究費をLC-MS/MSを用いた菌体内および菌体外代謝物のメタボローム解析および菌株のゲノム解読の消耗品費等に使用する予定である。また、SEAとポリフェノールの相互作用をNMR等を用いて測定し、その作用機序について明らかにするため、研究費の一部は、NMRの消耗品費等に使用する予定である。
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