【はじめに】本研究では,生物多様性を構成する3つの階層のうち「生態系の多様性」,「種の多様性」の問題を対象としたもの比して,種の保全を考える上で重要な第3の階層―「種内の多様性」を意識させる課題設定は,これまでほとんど行われてこなかったことに着目し,全国的に泥~砂泥干潟で多産する腐肉食性の巻貝アラムシロの殻色多型に素材とし,「種内の多様性を実感させる野外教育プログラム」の構築とその意義についての検討をおこなった. 【実施状況】(1)平成26年度に中国・四国,九州南部地方の6地点から,アラムシロの集団標本を採集した.なお,同年度に青森県と北海道での採集も実施したが,標本を得ることができなかった.(2)(1)の標本と研究期間開始前に収集済みの岩手県~福岡県間12地点のアラムシロの標本の肉を抜き,殻を整理した.(3)平成27年度には,これらの標本を,螺肋(うね)と螺溝(みぞ)の着色状態から,無地から真黒に至る8タイプの殻色型にわけることができた.しかしながら,本種の殻色多型はかなり複雑で,成人においても殻色型を決定するのが困難な個体が存在することがわかった.(4)よって,児童・生徒への教育においては,「既成の殻色型を示して分類させる」のではなく,観察・スケッチ(ぬり絵)をとおして,「仲間探しとちがいの発見」という行為を体験させつつ,種レベルの共通性と個体レベルの差異の認識を促す実践の方が,より教育効果が高いと判断し,ぬり絵下絵を準備するとともに,小学校低学年と高学年児童のモニターによる観察,ぬり絵作業を実施した. 【展望】アラムシロの殻色図鑑を含む,教育用ウェブページを作成し,ほぼ公開できる状態にある.本研究の成果をふまえ,アラムシロを核とした生物多様性の全階層(生態系・種・種内)をバランスよく配置した,野外教育プログラムの構築・実践をめざしていきたい.
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