研究課題/領域番号 |
26560086
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
藤岡 達也 滋賀大学, 教育学部, 教授 (10311466)
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研究分担者 |
山崎 栄一 関西大学, 公私立大学の部局等, 教授 (00352360)
伊藤 孝 茨城大学, 教育学部, 教授 (10272098)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 防災教育 / 自然災害 / 教員研修 / 教員養成 / ESD |
研究実績の概要 |
東日本大震災の大きな被災地の一つである福島県が発生後に主催する防災教育や放射線教育に関する教員研修や副読本作成についての取組をアクションリサーチ的なアプローチで探った。一方で,これまで大きな自然災害による被害のない地域,例えば滋賀県等においても防災教育の在り方を学校安全と連動して明確にした。福島県においては,その広さから7教育事務所が存在し,それぞれが教員研修を実施している。各地域の異なった災害に密接する自然環境及び社会環境を踏まえながら,その取組の意義と課題を探った。 さらに,防災教育を教育課程に位置付けるための現行の教育課程,教育現場の課題を東日本大震災の被災地の研究開発学校や実践的防災教育支援事業に指定されている学校の授業実践の取組から考察,検討した。ここでは,総合的な学習の時間と教科の連動など,教科横断・総合的な教育の中での自然災害,防災教育の具体的方法を明らかにした。 本年度は,学校での防災教育を発展させるために不可欠な教員養成並びに教員研修での実践内容,方法,システム等を探った。現在,教育大学では,教職大学院の設置に伴って,そのカリキュラムの構築やシラバス作成等に取り組まれている。現在の既存の教職大学院で関連したカリキュラムを集約して分析したり,滋賀大学のようにこれから設置される教職大学院の中で教育現場と密接した教育内容,方法を明確にした。 また,学校防災を本研究のテーマとしながらも,学校だけで児童生徒の安全確保することの困難さを示し,地域と学校とが連携して防災教育に取り組んでいる事例等を収集し,今後の新たな学校と地域との連動した防災教育の在り方を探った。 この研究を通じ,教育の法規的な制度の重要さに注目し,法的な学校教育制度の課題を明らかにしながら,防災教育の新たな構築や国内の諸学校での共通的な意義付けと活動の展開を探った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本各地の教育委員会や教育現場の協力を得て,地域の現状に応じた 日本における防災教育の現状と課題が明確にされつつある。確かに全国画一的な学習指導要領に基づいた教育活動が展開されている我が国であるが,地域の自然環境及びそれがもたらす自然災害の種類が多様なため,各地域ごとの実践的な取組が必要なことが明確になった。ただ,本研究を始めてからも,広島県土砂災害や御嶽山の噴火,特別警報が発表される集中豪雨など,大きな被害が相次いで見られた。これらの発生原因を科学的なメカニズムから学校教育,特に理科教育においての取扱いを示すとともに,防災教育としての危険を予測し,安全な行動をとれるような教育方法,内容を検討した。これには教育行政だけでなく,国や都道府県レベルにおいても,危機管理局などの一般行政との連携も不可欠であることが明確になった。また,学校も所属する児童・生徒の安全だけでなく,地域に立地する役割も認識し,日常からの地域と学校との災害を想定した新たな連動した取組が重要であることが示された。 また,本取組を通して,これからの学校教育に求められているアクティブ・ラーニングやESD(持続可能な開発のための教育)の必要性は理解しながらも,具体的な取組に戸惑っている教育現場や教育行政にとっても,地域に応じた防災教育の取組が,それらの課題に応える具体的な教育内容,方法となることが明確になりつつある。さらに学校危機管理や学校安全が重要視される今日,自然災害に関する防災・減災に関する教育はそれらの課題と密接に関連し,むしろ同時に取り扱うことが教育現場にとっても進めやすいことがわかった。今後,実践的な教育課題に対応することができる教員養成や教員研修が期待されている中,本研究の取組にはチームとして学校が取り組んだり,地域との連携の中で意義が深まることが明らかになってきた。
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今後の研究の推進方策 |
近年,様々な自然災害が発生しており,初めて自然災害に遭遇した地域にとって,防災教育や復興教育などに戸惑うことが多い。これには,過去の自然災害の教訓が地域や時代を隔てて伝わっていないことも考えられる。そのような中,本研究の取組が各地域や自然災害の種類ごとの差異を明確にできるように体系化することが望まれる。これにはアクティブ・ラーニングやESDと連動させた教科や総合的な学習の時間などでの実践に基づき,それを検証した教育方法や教育内容が求められる。引き続き,地域や時代を超えた普遍的な防災・減災教材の開発を進める。 従来,学校教育の中で取り扱われることが少なかったため,教職員も防災教育の重要性は理解していても,具体的な取扱い内容,方法に戸惑うことが多い。そこで,最終年度を延長した今年度には,教員養成や教員研修の中で開発した教材を用いて実践を行い,その効果を事前・事後調査などから検証する。具体的には本年度滋賀大学で開催される免許更新講習において,防災教育を中心とした学校安全に関するプログラムを実施し,受講者の防災教育や学校安全に対する認識の変容を探る。また,福島県,長野県,滋賀県,彦根市などで作成した副読本を用いた教員研修や滋賀大学教育学部などの教員養成系学部等の教員希望者への授業の結果による変容を明らかにして,教材・教育内容・方法の意義を探る。 加えて,東日本大震災等,大きな自然災害後,学校での取組をめぐって,多くの訴訟等が行われ,結果が出たところもある。過去に発生した自然災害についての状況を踏まえながら,法律や条例等にも照らし合わせて,学校防災・地域防災の在り方を整理する。 最終的には現段階における日本の学校防災の在り方についてを体系的に整理し,構築した学校防災のスタンダード等,実践を交えながら,その内容,方法等の批判を仰ぎ,今後の改善につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の義父及び実父が相次いで他界し,その対応に追われ,予定していた訪問調査等ができなかった。さらには,そのために教材開発や研究授業の実施にも若干の遅れが生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は,昨年度実施できなかった現地調査,例えば,中越地震,中越沖地震後の防災教育の取り組み状況とその効果についての調査を行う。さらに宮城県仙台市,福島県はじめ東日本大震災での被災地での防災教育の取組状況を精査する。また,作成した副読本や教材を用いて,研究授業を行い,その効果を探る。 学校教育での体系化を図るため,教員研修や教員養成系の大学で開発したカリキュラムを実施し,その効果を探る。特に教員研修では,被災地の教育委員会や学校,例えば福島県などで実施するが,かつて,大きな自然災害の被害が生じながらも近年,大きな自然災害が比較的少ないと考えられている滋賀県や鳥取県,さらには,東海地震,東南海地震など将来大きな自然災害による被害が生じると考えられている地域においても研修プログラムを実施し,教員や行政が考える共通性と差異についても注目して,分析・考察を行う。
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