小学校5年生の「水中の小さな生物」の教材として取り上げられているミジンコに着目し,実感を伴った学習が推進されるような教材開発を行うことを目的として基礎研究を行った。 Daphniaは環境条件が良いときには雌が遺伝的に同一の雌を産み出す単為生殖によって繁殖する。しかし,環境条件が悪くなると,単為生殖から有性生殖へ生殖様式を切り替え,休眠卵を産出する。休眠卵は凍結や乾燥などの劣悪な環境条件にも対応でき,環境が好転するまでの間,卵のまま耐えることができる。 これまで,ミジンコの入手先としての候補である小学校プールのプランクトン調査を2年間にわたって行った。兵庫県東播磨地区の3校のプールで調査を行ったところ,ミジンコ(Daphnia pulex)が1校から採取できた。しかし,毎年継続して出現することはなかった。このことから小学校プールからのミジンコの採取は難しいという結論を得た。 次に,Daphnia属2種(D. pulex および D. similis)の20℃,長日(L14:D10),光量1750 lx条件下でのライフサイクルを決定した。そして,休眠卵誘導のための条件検討も行った。産仔した仔虫を5日間,温度 20℃,長日(L14:D10),餌あり条件下で5日間飼育した後,条件を変化させてさらに10日間飼育し,生存率,産仔数,仔虫の雌雄,休眠卵産出の有無について調べた。その結果,D. pulex では,短日(L10:D14)と低温(15℃)の条件で休眠卵の産出が確認できた。しかし,雄はどの条件でも産出されなかったことから,産出された休眠卵はどれも絶対単為生殖によって作られたものであると考えられる。また,D. similis においては1匹での飼育実験のため,どの条件下においても休眠卵は産出されなかった。このことから,D. similisは循環単為生殖であることが強く示唆された。
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