本研究では、作文(文章産出、文章作成)に関するさまざまな研究・業務分析の基盤とするために、ワープロなどによる作文過程(writing process)を測定する技術を開発している。測定にあたってはITを使う作文行動(writing activity)をモデル化し、それをマトリックス型文章編集モデルと呼んでいる。このモデルでは、段落といった文章のどの部分を、いつ編集したかを、そのとき周辺にあった他の文章部分と合わせて、機械的に記録する。 2016年度は、収集した編集操作記録データの分析と評価に注力した。(1) 前年度に引き続いて文章編集アプリケーション「トピックライター」を使って演習を行いデータを収集した。(2) 段落などが編集される時間的な前後関係に着目した「編集操作の時間的な共起関係」を使って、前後して編集対象となった段落間の遠さを積算する指標Editing Operation Indicator (EOI)を提案した。ある段落を編集して、次に編集する段落が遠くにあるほど、EOIの値は大きくなる。(3) 受講生同士のピアレビュー後に文章を修正する編集について、EOIが高い編集の方が、文章の論理的構成の評点に有意な改善がみられたので、研究会で発表し議論した。(4) 本研究後に向けて、 文でジグソーパズルを行うアプリケーション「ジグソーテキスト」を提案し、それによる編集過程の測定・分析について考察して、研究会で発表し議論した。 本方式では、データの記録・可視化はコンピュータによって機械的に行われ、大規模化でき、リアルタイムに分析・可視化できる。また、段落間の関係の、「根拠」といった意味付けから中立である。 2016年度に行った分析・評価によって、本研究で開発したマトリックス型文章編集モデルが、文章の論理的構成の指導や学習に役立つ可能性を確かめられ、本研究の目的を達成できた。
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