研究課題/領域番号 |
26560141
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
片岡 太郎 弘前大学, 人文学部, 特任助教 (80610188)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 溶存酸素 / 脱酸素効果 / 有機質遺物 / 水浸出土木材 |
研究実績の概要 |
本研究は、低湿地遺跡から発見される有機質遺物の水中保管方法に対して、中長期的にメンテナンスフリーな保管方法を模索するものである。 平成26年度は、保管容器を想定している脱酸素フィルムの市場調査と特性調査、脱酸素フィルムの特性に応じた溶存酸素量の吸収効果に関する実験を行った。脱酸素フィルムの溶存酸素吸収効果は、主にポレオレフィンと鉄系吸着剤により実現されており、フィルム容器の透明度は、全面が不透明なものと半面が透明なものがほとんどであった。これらの脱酸素フィルムの透明度の違いについて、脱酸素効果と温度依存性を溶存酸素測定装置を使った実験により、フィルムの透明度の違いに係わらず脱酸素効果があることが確認された。一方で、脱酸素効果は水の温度に大きく影響を受けた。溶存酸素の水中における飽和量はそもそも水中温度に依存し、温度が高いほど飽和溶存酸素量が大きくなり、本実験でも確認できたが、これに対して脱酸素フィルムだけの効果をみてみると、15℃から25℃の範囲では水中の温度に依存せずに脱酸素効果があることが認められた。従来、文化財を水中保管する場合、経年劣化等の確認のために室温で透明なフィルムで水とともに包装するが、現状、新規に脱酸素フィルムに交換すれば脱酸素効果が得られることがわかった。劣化抑制効果は平成27年度まで継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度計画では、脱酸素フィルムの出土木材の劣化抑制効果についても検討開始する予定であったが、通常のフィルムで保管した有機質遺物の水中保管中の劣化が、短期間ではあまり進行せずに、その差を定量化できなかった。また、脱酸素フィルムの脱酸素効果の確認に時間がかかったことが影響した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、脱酸素フィルムの出土木材の劣化抑制効果に着手するとともに、最適な保管条件(温度、pH、イオン濃度)の模索を行う。微生物が活動できる温度範囲として、0~70 ̊C 程度、pH6.5~8.0 程度である。また、水中における飽和溶存酸素量については、水温と溶存塩類濃度により異なるがこれについては前年度明らかとした。これらの各種条件について、 前年度で明らかとした劣化と溶存酸素量との関連を踏まえ、pH、水温と各種イオン濃度の測定を通しての比較実験し、出土木材の劣化軽減できる条件を検討する。ただし、本研究の脱酸素フィルムを使った水中保管方法の実用化は、一般的な文化財収蔵庫(20 ̊C 程度)における保管を想定している。最後にこれらの成果をとりまとめ、学会発表や論文公表、各種研究会により、国内外で成果を発信し、脱酸素フィルムを使った水浸出土木製品の水中保管方法を実用化する。
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