現在、遺跡出土水浸木材の水中保管中に木材の劣化が懸念されている。対策として、好気性微生物の活動に関わりのある溶存酸素量の低減に対して脱酸素フィルム等で封入する等の対策が有効である(平成26年度実績)。これは、遺跡出土木材の擬似埋蔵環境といえる。しかし、溶存酸素量が低減した場合の嫌気性微生物の活動による腐卵臭の発生する問題が生じた。 平成27年度では、室内に設置した保管水槽の作業を想定し、水中保管中の臭気に関する官能検査を行って腐敗臭の発生時期を記録するとともに、水中の微生物の活動を間接的に示す溶存酸素量の測定を行ない、これらの関連性について調べた。結果、水中保管開始直後の溶存酸素量8mg/lが直後から急激に低下し、二日目までで0mg/lとなった。これは、好気性微生物が溶存酸素を消費したことが一因と考えられる。五日目には、腐卵臭の発生と木材表面に付着した“ぬめり”が認められた。これらは二十七日目まで継続して認められた。そこで、作業環境改善を優先し、二十八日目から水槽内にエアーポンプを使って溶存酸素量を増加させた結果、溶存酸素量の増加にともなって腐卵臭は消えたものの、ぬめりはクリーニングを繰り返し行っても常に発生した。ぬめりは5%PEG400水溶液含浸処理中に腐敗臭の主因が好気性細菌による影響である報告があることから、溶存酸素量増加にともなう好気性微生物が付着したものであると推定した。 溶存酸素量の低減方策は、擬似埋蔵環境を創出することが可能であったが、嫌気性菌の活動により腐敗臭を発生させる結果となった。一方で、溶存酸素量を増加させる手段により、短期的にみれば、室内における作業環境の安全衛生が図られることがわかった。中長期的視野では確実に好気性微生物による木材への劣化(変色・エロージョン等)が懸念されることから、これらへの対応策を考慮した保存処理計画が必要である。
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