平成27年度に計画した高槻市の芥川遺跡・塚原遺跡銅鏡と茨木市の東奈良遺跡銅鏡を対象にしたSEM-EDSを用いた表面性状の観察と微小部XRD測定による元素分析が、資料の借用時期や機器の使用スケジュール等の関係で年度をこえることになったため、平成28年度まで1年間研究期間を延長し、本年が第3年目となった。 本年度は、上記の分析を行うとともに、さらに加えて青銅鏡の摩滅痕が生じた過程を解明すべく、青銅鏡に対して手磨きを模擬した湿式摺動試験を1000時間施した。具体的な試験条件は、0.5wt%塩水溶液中に青銅鏡を固定し、手磨きを想定した荷重100g、線速度9.4 mm/secの条件下にて1000時間の連続摺動試験を実施した。なお、試料の表面凹凸形状の継時変化を定量的に評価するため、100時間ごとに直接接触式表面粗さ測定および3次元マイクロスコープによる非接触式表面粗さ測定を実施した。その結果、試験前(0時間)と比較して1000時間試験後の文様の高さに変化が見られないことから、出土鏡に確認された青銅鏡表面の摩滅痕は手擦れによるとは言い難いと判断された。 これらの成果は、考古学分野において指摘されていた青銅鏡の「手摺れ」による摩滅とそれを根拠とした「伝世鏡論」が、それほど単純な因果関係としては理解できないことを示唆するものとして重要であり、補足的な検討を加えて、平成29年度中には考古学系の雑誌に論考を投稿すべく準備を進めている。
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