本研究では埋蔵文化財の赤色顔料の微生物劣化の可能性を調査するためにパイプ状ベンガラの製造復元とそのベンガラを用いた培養試験、観察および分析をおこなった。 赤色顔料のパイプ状ベンガラの製造法による粒子の形態的特徴とその化学的性質を調査するために、原料の焼成、顕微鏡観察およびX線分析を実施した。虎塚古墳周辺の黄土をパイプ状ベンガラの候補地に選定して土壌採取や焼成をおこない、パイプ状ベンガラを製造した。その粒子は焼成温度の上昇によって粒子径が大きくなって黄色から赤色に変化することがわかった。高温焼成による色彩や寸法変化が示唆されて加熱温度、粒子成長および色彩変化に対する有意な関係性を見出した。 製造したパイプ状ベンガラを用いて鉄還元細菌が存在する培地において培養実験、顕微鏡観察およびX線分析をおこなった。培養後の電子顕微鏡の観察結果、鉄還元細菌が存在する試験のみで板状結晶を確認して、その結晶がパイプ状結晶の一部になっていることがわかった。これらの結果から板状結晶の生成によりパイプ状結晶の形状が把握できなくなり、形状変化による劣化の可能性がみられた。板状結晶のEDX分析結果、Fe、P、Si、Al、Oを検出してVivianite ((Fe2+3(PO4)2・8H2O)であった。 虎塚古墳の壁画に使用されている赤色顔料において本研究で製造したパイプ状ベンガラの間の関係性を調べるため、虎塚古墳の壁画から落下した破片を資料に選定して観察および分析をおこなった。虎塚古墳の資料ではパイプ状ベンガラを確認していないが、本研究で取得した研究成果をとおして、その赤色顔料の焼成温度に関する知見を得ることができた。また、出土土器における赤色顔料の観察および分析によって埋蔵文化財における顔料の化学的性質および形状に関する情報を取得した。
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