文化財を構成している材料の同定は文化財保存科学において重要な課題の一つである。しかし、文化財の調査では資料採取が許されず、非破壊・非接触を大前提とした手法を要求されることが多い。このため、X線を用いた調査手法は重要である。ところで、文化財の調査現場では、蛍光X線分析と比較すると、X線回折を用いた分析は活用される頻度が低い。その主な理由は、可搬型の分析装置が充分に実用化されていないことが挙げられる。しかし、X線を2次元的に捕えるようなX線検出器を開発しX線回折に適用すれば、装置内の駆動部分を減らすことが可能となり、可搬型分析装置の開発を促進すると期待できる。以上が本研究の着想に至った経緯であり、ガス電子増幅フォイルを用いて2次元イメージングが可能な検出器の開発を行うことが本研究の目的である。 本研究ではX線の検出を行うために、ガス電子増幅フォイルを用いた検出器の開発を行った。CMOS技術等を用いた従来の検出器では、信号を読み出すための素子を2次元状に配置して行う方法が多かった。一方、本研究では従来よりも単純化した信号検出の方法として、1次元のストリップ状のパッドを読み出し基板に配置して信号読出を行う方法を開発し、その方法を評価するための実験を行った。 X線源として本研究費で購入した空冷式の小型X線管を使用した。また試料としては、NaClの粉末試料を用いた。ブラッグの条件式から反射X線の強度が高いと予想される位置にX線検出器を設置して、反射X線の強度に応じた2次元イメージを作成した。その結果、デバイ-シェラー環の一部を2次元的に捕えることに成功した。 従来と比較すると簡便な方法でX線2次元イメージを得ることに成功したが、検出精度のさらなる向上や文化財調査に向けた安全性の向上が今後の課題である。
|