今年度は、試作した地震計の比較実験および複数の地震計からなるネットワークの構築を目標としていたが、まだ試作機の実験とノイズ軽減や低消費電力化の実現に向けた試作機の改良にほとんどの時間が費やされた。前年度までに試作した地震計では、小型・安価・低消費電力を実現するため、センサー部分にMEMSを利用し、三成分の加速度値を出力できる。ある基準値を超えた大振幅が入力されると、その前後60秒間の記録を保存する設定にしている。そのような記録が得られると、組み込まれたSIMカードのF0RMA網によって、センター収録装置に送信され、蓄積される。この通信の際に、ネットワークと同期を取り、時刻を合わせることができる。この試作機を地震研究所2号館の地下にある地震計室に設置し、高感度地震計や中感度加速度計と比較実験を行った。 試作機のトリガレベルを2ミリガルに設定したところ、多くのトリガ記録が得られた。その中には有感地震も含まれているため、連続記録から切り出して比較してみた。振幅は、ほぼ同程度(数割以内)であったが、時刻は0.2秒以上ずれることもあり、より精度を高める改良が必要である。GNSSデータを受信し、それで校正することを検討中であるが、組み込むには、まだ大きさや消費電力の点で、改善が必要である。そのほか、サンプリングレートを100Hzにする実験も行った。サンプリングレートを上げると、CPUの計算時間やデータ伝送量が増え、消費電力が増加する。さらに、ノイズレベルも数倍になってしまうため、低消費電力で高精度なMEMSを選択し、フィルタリング等による試験観測を行ってみた。さらに、都市部だけでなく山間部の地震計設置地点において、試験機を設置して観測を行った。実際の観測データを取得することで、地震計のノイズや観測データの伝送等の問題の洗い出しを行った。
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