本研究「食料・エネルギー備蓄におけるデフラグメンテーション費用」は、食料やエネルギーの国家備蓄(民間委託を含む)の有効かつ即効性のある活用について考察した研究である。本研究最大の特徴は、生産者と消費者の間のロジスティクスを含めて備蓄の在り方を考える点にある。東日本大震災のような国家規模での危機では、十分な国家備蓄がありながらも、それが被災者・消費者に供給されないという問題が露呈した。食料やエネルギーが確実かつ迅速に供給されるためには、①生産者・備蓄、②消費者、そして③流通の各部門における統合的な最適化(デフラグメンテーション)が必要である。しかしながら、わが国においては部門を統合した最適化がされていない。本研究は、デフラグメンテーションの費用に焦点を当てながら、急激な価格変動に対するバッファー・ストレージ(緩衝備蓄)としての役割についての可能性について考察した。 かつてJ・M・ケインズは「個々の企業が十分な余裕をもって原材料を保有しようというインセンティブがないことは、競争システムにおける致命的な欠陥である―」と述べ、「市場の失敗」を根拠として、備蓄奨励政策を説いた。 備蓄食料や備蓄燃料の購入(入札)に関しては、一般競争入札が望ましいとされているが、必ずしもそれは備蓄のもつ当初の目的を果たすとは言い難い。本研究では、「不測の事態」が発生した状況の下では、いわゆる「規制緩和」よりもむしろ「透明性」が確保されているなかでの「規制された経済社会体制」の方が、効率的に危機を回避できる可能性があるいう点について考察した。 しかし、市場メカニズムを介さない備蓄制度を巡っては、不透明な問題も多い。中でも、新興国における備蓄奨励政策が事実上の国内産業保護になっているとの指摘もある。いかに透明性を確保していくかについては、今後の検討課題となった。
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