研究課題/領域番号 |
26560171
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
桑名 一徳 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (30447429)
|
研究分担者 |
櫛田 玄一郎 愛知工業大学, 工学部, 教授 (80153287)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 火災 / 燃焼 / 燃え拡がり / リスク評価 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、スモルダリング燃焼の危険性評価手法を確立することである。可燃性固体の燃焼性試験は有炎燃焼を前提としていることが多いが、多くの火災で炎を伴わないスモルダリング燃焼が生じていて、スモルダリング燃焼時の燃焼性は有炎燃焼と全く異なる。しかし、スモルダリング燃焼の研究は十分に行われておらず、スモルダリング燃焼性の評価方法は確立されていない。そこで本研究では、スモルダリング燃焼と有炎燃焼の違いを燃焼学的な観点から明らかにし、スモルダリング燃焼の危険性を適切にかつ簡便に評価できる手法の確立を目指す。平成26年度に実施した燃焼実験、理論解析および数値シミュレーションについて以下に述べる。 【燃焼実験】スモルダリング燃焼が生じるのは、酸素の供給が制限された環境である。そこで、自然対流を抑制し、スモルダリング燃焼を生じさせることのできる装置を開発した。上下2枚の板の間の狭い空間で固体を燃焼させることにより、スモルダリング燃焼を生じさせるものである。さらに、外部からの空気の供給量を調節可能にするため、低速風洞を組み合わせた装置とした。この装置を用いて、酸素の供給が制限されるスモルダリング燃焼では反応が不安定に進行することを明らかにし、様々な条件においてスモルダリング燃焼性(特に燃え拡がり速度)を評価した。 【理論解析】化学反応を含む熱流体力学の支配方程式から、反応帯位置の時間変化を記述する式を導出した。これにより、ルイス数と呼ばれる無次元数が重要なパラメータであることを明らかにした。また、この式を解から、スモルダリング燃焼において反応が不安定に進行する様子を再現することが出来た。 【数値シミュレーション】理論解析のベースとなった化学反応を含む熱流体力学の支配方程式を数値的に解き、実験結果を説明できる結果が得られることを確認した。また、先述の理論解析が妥当である条件範囲について検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最大の目的である、スモルダリング燃焼の危険性を評価できる装置の開発がおおむね完了し、複数の試料を用いて様々な条件で危険性評価できる段階である。また、酸素が不足した環境でスモルダリング燃焼が不安定に進行するという、学術的にも興味深い現象を実験的に再現することに成功した。理論解析および数値シミュレーションに関しても、基礎方程式の導出が完了し、その解、特にパラメータ依存性が実験結果を矛盾なく再現していることを確認できた。以上のことより、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成度について、おおむね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、スモルダリング燃焼の危険性評価装置の開発がおおむね完了し、また、理論解析や数値シミュレーションの基礎となる方程式の導出が完了した。今後は、様々な条件で試験することにより、スモルダリング燃焼の危険性を適切にかつ簡便に評価できる手法を確立する。燃焼実験、理論解析、数値シミュレーションの具体的な内容について以下に記す。 【燃焼実験】平成26年度に開発した装置を用いて、複数の試料を対象として燃焼実験を行う。実験条件によりスモルダリング燃焼性がどのように変化するのか検証する。現状では、実験パラメータとして燃焼空間の隙間幅および供給する空気の流量を変化可能である。スモルダリング燃焼における酸素供給の重要性を考えて、平成27年度は供給する空気中の酸素濃度を変化できるように装置を改良する予定である。そして、これらのパラメータを変化させて実験を行い、スモルダリング危険性評価に最適な試験条件について検討する。 【理論解析】平成26年度に構築したモデルを出発点とし、実験パラメータである隙間幅、空気供給量、空気中の酸素濃度の影響を考慮できるようにモデルを拡張する。このモデルにより実験結果を少なくとも定性的に再現できることを確認し、モデルの仮定の妥当性等を検証する。また、この理論解析に基づき、現象を支配する最も重要なパラメータについて考察する。 【数値シミュレーション】平成26年度に用いた支配方程式を拡張し、実験に対応した数値流体力学シミュレーションを可能にする。まずは実験と同じ条件でシミュレーションを実施し、実験結果とシミュレーション結果を比較することでモデルの妥当性を検証する。その後、実験的には難しい条件でもシミュレーションを実施し、スモルダリング危険性について基礎的な知見を得る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
数値シミュレーションを効率よく実施するためのワークステーションを購入し、愛知工業大学に設置する予定であったが、今年度は主にモデル構築を実施し、数値シミュレーションの実施件数は限定的であったため、ワークステーションは次年度に購入することとしたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の研究により、数値シミュレーションモデルの構築がおおむね完了したため、様々な条件でシミュレーションを実施できる状況である。ワークステーションを購入し、大規模シミュレーションを数多く実施する計画である。
|