研究課題/領域番号 |
26560172
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
井上 征矢 筑波技術大学, 産業技術学部, 准教授 (80389717)
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研究分担者 |
丸山 岳彦 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語資源研究系, 准教授 (90392539)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 聴覚障害 / 情報保障 / 電光文字表示器 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、電光文字表示器を用いた聴覚障害者への効率的な情報伝達方法を明らかにすることである。これまでの研究で,聴覚障害者学生および健聴者学生が,横方向にスクロール表示される文章を黙読する際の視線の動きを計測したところ,聴覚障害者学生は健聴者学生に比べて,視線を文字移動方向に引きずられる速度が速いことを示す結果が得られている。また、読解後に行った文意の把握度に関する質問への誤答率も高かった。そこで平成26年度は、聴覚障害者の文章読解におけるスクロール表示の影響を明らかにし、また文字をスクロールしない表示方法の有効性を探るために、聴覚障害者学生20名と健聴者学生20名を対象に、一定時間静止表示された文章を読解する際の視線の動きと、その際の文意の把握度を計測する実験を行った。表示に用いた文章は、交通施設や車内などにおいて表示されるものを想定し、前述のスクロール表示実験で用いたものと同じものを用いた(36種)。 視線の動きの計測では、行数が多い場合に、後半の行で最初に視線の停留が計測されるまでの時間が、聴覚障害者は健聴者と比較して有意に遅くなった表示がみられ、静止表示であっても健聴者よりも読解に時間がかかっていることを示す結果が得られた。文意の把握度を探る質問では、スクロール表示の場合と比較して、聴覚障害者の誤答がやや減少し、健聴者との有意な差がなくなった。被験者ごとの読解力や実験への慣れの影響なども考慮したより詳細な分析が必要であるが、これらの傾向に従うならば、自分のペースで読みにくいことや、読み返しができないことなどのスクロール表示の特徴が、特に聴覚障害者にとっての読みにくさにつながっているのではないかと考えられる。 その他、現状の表示の問題点を把握するためのデータ収集として、公共空間における電光文字表示器で表示されている文章の収集(動画撮影)なども行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の主な課題は、聴覚障害者が電光文字表示器に表示された文章を読解する際の困難の所在について明らかにすることであったが、そのために必要な実験である、聴覚障害者の文章読解におけるスクロール表示の影響を明らかにする実験を予定どおり行うことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、平成26年度までに得られた知見や、既存研究で明らかになっている聴覚障害者の日本語文読解時の困難(誤読傾向)、手話での表現方法などを考慮し、現状の表示における問題点をさらに追求する。そして、聴覚障害者に読みやすく、かつ誰もが文意を速く把握できるような文章の書き換え方法(言い換え、省略、語順の入れ替えなど)について検討する。また、現状調査で収集した文章と、ここで検討した方法で書き換えた文章について、聴覚障害者にとっての読みやすさや分かりやすさの比較を行うなどして、書き換え方法の評価や改良を行う。 平成28年度は、平成27年度までに検討した方法で書き換えた文章を表示する場合の、適切な表示速度(静止表示の場合は表示時間)、適切な文字の色分け方法、などについて探る実験を行い、よりわかりやすい表示方法について検討する。 そして最後に、以上の結果に基づいて、公共空間の電光文字表示器で表示される文章を、日本語の速読が苦手な聴覚障害者にとっても分かりやすく、かつ誰もが文意を速く把握できるように書き換える方法、そしてその文章を効果的に表示する方法、に関する指針をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、実験などのデータ収集を重点的に行うこととしたため、当初予定していた成果発表のための旅費や発表費などが次年度使用額となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成27年度分に合算し、実験装置作成・解析のためのソフト購入費や、研究分担者の研究機材(PC、ソフト等)の整備費、実験の補助などを行う研究補助者のアルバイト代、研究協力者(実験の被験者)への謝金、研究成果の発表費、研究打ち合わせや研究成果の発表に要する旅費、研究記録等の作成・保存のための消耗品の購入費等として使用する計画である。
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