研究課題/領域番号 |
26560174
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
岡 泰資 横浜国立大学, 環境情報研究科(研究院), 准教授 (10240764)
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研究分担者 |
岡 秀行 独立行政法人海上技術安全研究所, その他部局等, 研究員 (80399518)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 船舶火災 / 動揺火源 / 火災プルーム |
研究実績の概要 |
陸上建物内の天井近傍に設置された火災感知器あるいはスプリンクラーの作動は,天井下を流れる天井流及びその推進力となる火災プルーム性状の影響を強く受ける。このため,数多くの理論的・実験的研究が実施され,天井流の温度・速度の減衰性状,天井流により運ばれる質量流量などに関する有益な関係式が導かれ,火災感知器の作動時間予測,避難検証などに利用されてきた。しかしながら,熱気流の発生源となる火災火源は,陸上建築内のある位置に時間的に固定された状態で,かつ一律に重力が作用する流れ場を対象としている。ところが船舶内では,船舶特有の動揺・傾斜の影響を受けるために,火源位置が時間的に変化するだけでなく,船体動揺に起因する慣性力も作用するため,陸上建物空間を対象に整備されてきた防火に係わる工学的手法が,どこまで適用可能か不明である。 そこで本研究では, 6自由度の船体運動のうち最も代表的な横揺れを想定し,動揺する火源上に形成される火災プルームの流動性状に注目した研究を,模型実験による実測ならびに数値シミュレーションの両面から取り組む。横揺れを簡略化した運動として,水平方向への単振動及び単振り子運動を取り上げ,このような運動する火源上に形成される火災プルームと,固定火源上の火災プルームに関する温度・速度減衰およびプルーム流量に関する既往の関係式との差異を明らかにする。実測値及び計算値を相互に検討することで,流れ場全体の詳細を把握可能な時系列データが得られるため,動揺条件下における火災プルームの流動性状を表す関係式の構築を検討する。さらにこれらの知見を用いて,船舶あるいは海洋構造物の防火安全設計の向上に貢献する実用的な技術指針の提案を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
横揺れの振れ角が小さい場合の近似として水平方向に単振動する火源を考え,固定火源上のプルーム性状との違いを実験および数値実験の両面から検討した。 実験的には,単振動制御できる電動スライダーに0.1m×0.1mの正方ガスバーナーを搭載し,水平方向に単振動する火源上に形成される火源上0.5m~2.2mの範囲のプルーム内の温度上昇及び上昇速度の水平分布を測定した。単振動周期よりも十分に長い時間間隔で平均化することで,水平方向に単振動する火源を静止した単一の矩形火源と見なし(以降,有効火源と記す),見かけの発熱速度(有効発熱速度)を変数とした有効火源中心軸に沿った温度・速度の高さ方向への減衰,温度及び速度の水平分布から得られるプルーム形状を実験的に把握した。さらに従来の建築火災安全工学の分野において利用されてきた軸対称プルームあるいは無限長線火源上の二次元プルームの各性状に係わる既存式と比較することで,対象とする矩形火源上のプルームの流動性状を比較するとともに,振動条件(振幅及び周期)の影響を検討した。 また,火災熱気流の数値計算に利用されてきた既存の各種サブモデルの適用性を的確に判断するために,実験条件を初期条件として,数値実験を進めるに当たりメッシュ分割,Sub-grid Scaleモデルの選択,境界条件の設定を検討した。その結果,単振動する動揺火源上に形成されたプルームの代表温度上昇,上昇速度の高さ方向への高さ方向への減衰性状が,実測値と一致すること,および振幅幅に依存して,軸対称プルームあるいは無限長線火源上の二次元プルームの各性状を示すことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
船舶の横揺れを単振り子の運動で模擬し,このような単振り子運動を再現できる動揺台を用いた計測を実施する。測定項目は,昨年度と同様に,見かけの発熱速度(有効発熱速度)と有効火源中心軸上の温度減衰,速度減衰の関係,温度及び速度の水平分布とする。また,実験では計測点数に限りがあるため,特に速度分布及び上昇する熱気流により運ばれる質量流量の時空間変化のメカニズムの詳細を把握することは難しい。そこで,任意の箇所の瞬時・局所的な物理量を抽出することができる数値シミュレーションの強みを活かし,有効火源表面からの高さとプルーム形状およびプルームにより運ばれる質量流量を算出し,建築火災安全工学の分野において利用されてきたプルーム流量に関する関係式の適用性を検討し,必要に応じて改良を加えることで,船舶火災に適用できる予測式へと高度化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで固定された火源上に形成された火災プルーム性状を把握するために実験を実施した経験はあったものの,本研究で対象とする動揺条件下の火災プルーム性状についての知見はまったくなく,確立された測定手法もなかった。このため,測定機器の時定数の設定,測定位置など試行錯誤での測定となった。 さらに,単振動周期よりも十分に長い時間間隔で取得したデータを整理する必要があるため,最大で数10分の連続測定が必要となった。小規模実験室内で燃焼させながらこの測定時間を確保するには,常時換気が必要となるが,実験室内に取り込まれる換気流の火災プルームへの影響を極力排除する手法を決定するための時間を要した。
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次年度使用額の使用計画 |
より詳細な実験データを取得するための測定点の増加および1ステップの時間毎に外力と火源位置が変化した流れ場を解く大規模計算を実施できるようにメモリおよび高速化に必要な機器の購入に充てる。
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