日本有数の地すべり多発地帯の新潟県などでは,融雪期に発生する地すべりの他,晩秋~初冬に移動を開始する地すべりや,厳冬期から移動が活発化する地すべりがあることが報告されている。間隙水圧が上昇する融雪期以外に地すべりが寒候期に発生する要因についてよく分かっていない点も多く、地すべりの発生時期や動態の予測の面で、その機構解明が防災上課題となっている。このような地すべりが多発する地質体として、新第三紀の堆積性軟岩や火山地帯の火山性軟岩の分布地域が挙げられる。これらは、膨潤性粘土鉱物(スメクタイト)を地層中に多く含むことを特徴としている。スメクタイトは他の粘土鉱物に比べて特異に小さな残留強度特性を示すことが知られているが、本研究でその温度依存特性を詳細に調べた結果、低温ほど強度低下する特性が明らかとなった。つまり、寒候期に浅い地すべりが不安定化する要因として,すべり面深度における季節的な地温低下が関与している可能性が指摘された。 3か年の研究調査で、新潟県上越市の伏野地すべり地ですべり面の不撹乱試料を採取する機会を得て,温度環境を変化させながら繰り返し一面せん断試験を実施した。すべり面のせん断強度が温度低下に伴い低下し、せん断抵抗角の減少に影響を及ぼすことを実証した。また,温度低下によるクリープ変位の開始・進行を検証する実験を行ったところ,停止状態から変位が開始し,冷却中緩慢に変位が継続する挙動を確認した。リングせん断試験機を用いた長期の実験からも、せん断強度が温度変動に追随し緩やかに変化することを明らかにした。以上の一連の実験により,地温の季節変動が寒候期の地すべりの不安定化要因として関与している可能性について検証が進んだ。 以上の成果の一部は、インパクトファクターの高い国際学術雑誌に論文として掲載され、AGUのEOS Research Spotlightにも紹介された。
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