研究課題/領域番号 |
26560194
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
河田 恵昭 関西大学, 社会安全学部, 教授 (10027295)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 集合知 / ネット / 社会経済被害 / 南海トラフ巨大地震 / 最悪の被災シナリオ / 東日本大震災 / 被害の定量化 |
研究実績の概要 |
首都直下地震や南海トラフ沿いの地震発生が大変憂慮されている。しかし、わかっている想定被害は、正確に被害全貌を反映したものではない。だから、どの程度の防災の投資額が必要であるのか、皆目わからない。具体的な被害額がわかれば、それぞれの項目の被害額を効果的に少なくする方法を開発すればよいのである。それについても、防災・減災の哲学が関係者間で認められるようになってきた。それは、将来の“国難”と呼ばれるこれらの災害の発生に備えて、減災レジリエンスという考え方を基本としなければならないということである。そこでは、防災・減災力の向上を目指すことになる。これは、災害が起こった瞬間の被害を減らすと同時に、被害からの回復を早めなければならないという2つの機能から構成される。後者は、とくにわが国のような先進国においては、災害による経済被害額が極端に大きく拡大する傾向があり、有効な防災・減災対策を講じるためにも、必要な基本的考え方であろう。 そこで、本研究では、ネット集合知を用いる方法を開発することにした。被害の定量的評価のためには、自然科学的知識が必要であり、一方でその前提となる定性的評価のためには社会科学的知識が求められる。幸い、本研究代表者は両者が備わっているので、挑戦できるということである。初年度には、ネット集合知、すなわち情報の集約によって評価できるかどうかを検討し、阪神・淡路大震災において発生した課題が、情報を媒介することによってすべて関係性が見出せることを明らかにした。次年度にあたる本年は、課題を集約する方法として、最悪の被災シナリオが発生するという条件で、それらの具体的な被害を文章であらわすことに成功した。これを南海トラフ沿いの地震に適用するための基本的な枠組みとアンケート調査実施のための準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、集合知に関する既存の研究成果を集約した。その結果、人びとが被害と考えるものを被害として定量化するには、ここで進める方法が適切であることがわかった。これは当初、想定していなかった成果である。集合知とは、「集団の知恵」と呼ばれるものであり、集団のメンバーの大半があまりものを知らなく、かつ合理的でなくても、集団として賢い判断を下せるというものである。ジェームス・スロウィッキーは、集合知が構成される要件を以下のようにまとめている。(1)多様性(それが既知の事実のかなり突拍子もない解釈だとしても、各人が独自の私的情報を多少なりとも持っている。)、(2)独立性(他者の考えに左右されない。)、(3)分散性(身近な情報に特化し、それを利用できる。)、(4)集約性(個々人の判断を集計して集団として一つの判断に集約するメカニズムが存在する。)の4点である。この4つの要件を満たした集合知は、正確な判断が下しやすい。なぜならば、多様で自立した集団や個人の知恵から構成されているからである。 このような集合知に対する期待が、東日本大震災以降高まりを見せている。東日本大震災、そして直後の原発事故に関連して、「専門家の権威」に対する人びとの信頼が揺らいだといわれている。その代わりに、一般の人びとの意見を集める集合知が注目されるようになった。とりわけ、「参加型」とも呼ばれるウェブ2.0が2004年頃から登場し、誰でもネットで発言できる時代となったことと相まって、「ネット集合知」への期待が高まっている。ソーシャルメディアを利用し、ごく普通の人びとの主張や意見を、横断的にうまくネットでまとめていけば、従来の専門家まかせのやり方より、もっと効率的に社会の公明正大な判断ができるようになるのではないか、というわけである。このようにインターネットの利用による情報集約の妥当性を明らかにし、アンケート調査の準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ネットでのアンケート調査による人びとの意見の集約を行う。過去の経験値の延長線上での評価を基本とせざるを得ないが、過去の災害を凌駕する事態を評価するためには、経験値に囚われないような発想も有用ではないかという観点から、有識者とともに、有識者以外の一般人も調査の対象者として含めることにする。そうすることで、集合知として未曾有の災害による被害を想定する情報を得ることが可能と考えた。まず、南海トラフ巨大地震が発生した場合に懸念される被害として、内閣府によって例示された16の最悪の被災シナリオを採用することにした。さらに付加的に、首都直下地震と共通する被害についても定量化することによって、両国難災害の特徴が明らかにされるものと期待される。要は、災害の特徴を被害から逆に理解できるようにしようとするものである。 つぎに、それぞれのシナリオに対する対象者の意見を40文字程度で記述してもらう。それらの結果を、使用する名詞によって特徴的に分類できると仮定する。文章でしか表現できない定性的な被害を、記述する特定の名詞に限定した単語数の比を求めて表示することを試みることにする。これらの解析方法には複数のものが存在しているので、それらを試みて、いずれの方法が妥当であるのかについて検討する。一方で、定量的に評価できる被害について、従来の方法で被害額を算定する。そうすることによって、これまで、定性的にしか評価されてこなかった被害を対象に、損失額を算出できる被害に関して、定量的な評価を行い、両者の関係性を用いて定性的な被害を定量化する。この結果から、災害による社会経済被害の内容が、総額だけでなく個々の被災シナリオに依存することから、優先すべき防災・減災対策を明らかにできるという成果も得ることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
アンケート調査を実施するためには単年度の予算では不足するため、次年度に予算を合算して執行することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
ネットを用いたアンケート調査を実施する。対象は2000人程度とし、結果が年齢依存型の制約を受けないようにするために、高齢者を含む中年以上の世代には、紙ベースのアンケートも平行して実施する予定である。これによって、世代間の社会経済被害の認識の違いも明らかにできるものと期待される。
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