一定トン数以上の商船・客船・漁船等には、AIS(船舶自動識別装置)が取り付けられており、自船の位置、時刻および針路などの種々のデータを自動発信している。また、陸上でインターネットにアクセスすることが可能であれば、船が存在する海域の気象・海象データの推定値を常時得ることができる。一方、沖合における津波は非常に速い流れとみなすことができる。実際、過去の研究において、沖合を航行中の船に津波が作用した場合は、船が動揺を伴わず非常に速い速度で流されることを確認した。したがって、船が流される速度と当該船舶の流圧力係数が既知であれば、津波の流速は船の運動データから逆に推定できる。本研究の目的は、この原理に着目し、AISデータを用いた津波の早期検知とその流速推定を行うためのシステムを開発することである。 平成28年度は、平成27年度に開発したデータ同化におけるシステムモデルならびに津波による船の運動の数値シミュレーションモデルの細部について検討を行った。前者に関しては、津波が到来した際には外力が急激に変化することになるため、システムノイズの分散を時変にする方法を新たに開発した。後者に関しては、実海域においては風の影響も考慮に入れなければならないことから、風の影響を考慮するための基礎的な検討を行った。その結果として、平成27年度に実施したデータ同化による津波の逆推定結果においては、風の影響が少なからず存在することが明らかになった。 今後は、モデルのさらなる精度向上を実現したうえで、昨年から継続して開発しているAIS情報と船舶データベースとの連携システムにモデルの組み込みを行い、陸上での船舶データを利用した津波の早期検知システムを完成させる予定である。
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