本研究の目的は、これまで未知であった毛細血管内を流動する赤血球と内皮細胞との力学的相互作用を解明することである。そのための研究の新しいアプローチとして、申請者が独自に開発した傾斜遠心顕微鏡内の赤血球と内皮細胞を対象とした数値解析を行う。単純化された力学条件下で毛細血管内の相互作用を模擬し、赤血球の変形と流動特性、内皮表面層の変形挙動と内皮細胞への力学的影響を明らかにする。解析の妥当性は、赤血球の摩擦特性を実験結果と比較することで検証する。毛細血管内の赤血球と内皮細胞との力学的相互作用の解明は、内皮細胞の損傷に起因する循環器系疾患の機序の解明や新しい治療法の開発に大きく貢献するものである。 平成28年度は、弾性赤血球モデルによる流体構造連成解析を行い、膜の弾性を変化させた場合に、種々の傾斜遠心力条件下での、ガラス基板とMPC基板上の赤血球の変形特性、浮上特性、血漿層の形成、摩擦特性の関係を明らかにした。弾性赤血球モデルとして、2次元円筒形の自然形状の状態で血漿中に浮遊する初期状態から、傾斜遠心力の影響で基板に向かって移動し、血漿層を介しながら基板との干渉によって変形し、最終的に、サブミクロンの血漿層を伴う定常状態に至る過程を再現した。定常状態では、膜の弾性に依存して、赤血球モデルの底面が平坦になる特徴が明らかになった。従来より議論があった、赤血球の移動に伴って細胞膜が回転する、タンクトレーディング現象について、膜の弾性と傾斜角度と回転速度の関係を明らかにした。
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