研究課題/領域番号 |
26560199
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
白石 泰之 東北大学, 加齢医学研究所, 准教授 (00329137)
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研究分担者 |
三浦 英和 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (50451894)
山家 智之 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (70241578)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 人工臓器学 / 末梢循環 / モデリング / 循環シミュレータ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、補助循環時の末梢循環パラメータを非侵襲非接触で計測解析し、あわせて末梢循環モデルを用いて臨床生理学的知見を再現するシステム開発を行い、長期予後を左右する末梢循環機能の評価を医工学的に解明することである。動物実験による各種人工内臓開発技術と自律神経系応答の基盤技術を応用し、非侵襲非接触での末梢臓器血流応答から循環パラメータを算出し、臨床現場での経験に基づく治療戦略予測に対して科学的根拠を提示するシステムとして、臨床データの抽出が可能な出力を整えるところまでを目標に置き、補助循環下でCCDカメラ計測データを用いた非接触非侵襲の主要機器(皮膚、肺、腎)の末梢血流評価の数理モデル化を併せて実施し、血液循環末梢評価モデルの開発につなげた。補助循環下での非接触非侵襲末梢循環動態評価を目的として、在宅治療のもとで遠隔地であっても循環機能評価が行えるシステム開発を目標として動物実験に基づく動画像からの脈波波形と末梢血流インピーダンス解析の基礎検討を進めた。高分解能の高速度CCD画像を解析し、各対象臓器の解剖学的構造と循環生理学的応答の知見を基に計測解析とモデル化の試みを重ね、近年のスマートフォンなどの画像解析による心拍情報取得からでは解析困難な脈波情報を皮膚、肺、腎臓で得ることが可能となった。対照としてレーザ組織血流計を用いて遠心型補助人工心臓による血液拍出補助下で末梢臓器血流の比較評価を行い、非接触画像データから得られた脈波の振幅情報について、レーザ組織血流と高い相関を得ることができ、同解析手法によって対象画像領域の末梢組織血流が高分解能時系列で定量評価可能であることが示されたレーザ組織血流計では、レーザ光の到達する表面に局在する組織血流によって循環血液量の時間変化をとらえるが、本研究での方法では、組織表面の分布も含めて時刻歴データとして末梢血流抵抗の評価が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
健常成山羊において遠心型血液ポンプを用いて左心補助循環の動物モデルによる腎動脈血流、腎末梢血流、肺動脈血流、肺組織表面血流、皮膚血流の計測を行い、臓器表面の末梢血流を画像解析によって算出し、各末梢臓器の血流インピーダンスを近傍の動脈圧波形と得られた血流脈波とから求めることが可能となった。末梢血管の交通は、臓器の機能によって解剖学的にも異なる。実臨床においては末梢臓器機能の評価自体は可能であるものの、個々の心不全患者において血流と直接計測に基づく末梢循環抵抗の定性的定量的評価ができれば循環動態を戦略的に予測することが可能となる。本研究では、とくに腎循環において腎動脈から腎末梢血流変化に至る拍動性変化を数理モデルにより推測することにも挑戦し、逆解析による血流末梢インピーダンスを構成する弾性抵抗と粘性抵抗成分を定量評価することを試み、遠心型補助人工心臓を用いた補助循環下での薬物負荷時に、腎末梢血流の抵抗変化を数理モデルにおいて評価可能であることが示された。実臨床では、重症心不全患者の末梢循環応答評価は各種生化学データや尿量など二次的な臓器機能から行うが、本研究の成果にもとづけば、非接触で得られたCCD画像から末梢血流の変化を来す血行力学的パラメータ変化を末梢血管抵抗の粘弾性特性から定量的に抽出することが可能となり、機械的循環補助による末梢循環機能を定量的に計測し、予後の予測につなげるための重要な指標となり得る。本研究において達成した上記の成果から、必要なときに画像取得のみで循環パラメータ予測を実施できる道程が明らかとなり、今後の補助循環システム形態と機能の違いが及ぼす生理学的変化に関する研究と、本研究の方法論を融合させることで、長期の予後予測が末梢循環の低侵襲非接触定量評価から可能となる。以上の成果達成を鑑み、当初の目標を到達できたものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果を得る過程で、画像から取得する末梢血流評価における以下の課題が明らかとなった。(1)末梢臓器血流の数理モデルのおける粘性抵抗と弾性抵抗からなる血行力学パラメータの非線形性が存在し各パラメータは血圧応答による自律神経系の制御を受けること、(2)補助循環における中枢側の血圧血流変動と臓器末梢部の血流応答の相互作用が各臓器の末梢循環交通路の解剖学的構造と機能的な応答特性に依存すること、(3)末梢循環機能の臨床評価パラメータと本研究で得られた末梢血流評価について循環生理学的、心臓病学的な関連と機序が未解明であること。これらの課題を解決する方法として、微小循環末梢血流路の血液循環シミュレーションモデルをすでに試作し、拍動負荷時の画像脈波を得ているが、今後さらに高分解能の血流路構造を作成し、画像スケール評価で診断可能な脈波変化を来す血管網の構造と機能を力学的応答も含めて評価する予定としている。また、循環にともなう容量変化が大となる肺循環については、新鮮摘出臓器モデルによる本手法の末梢組織血流評価を実施できる拍動シミュレーションシステムの構想と実施に着手済みであり、例えば左心循環補助下の右心不全時の肺循環評価システムとモデリングを進めつつある。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験の斃獣処理費用としてその他費目の予算計上を行っていたが、斃獣処理費用については次年度に併せて処理する方がより安価であることからまとめることとした。または研究発表の出張費用については、学内補助を有効に活用した結果、成果発表等に係る支出を削減できた。次年度研究発表については、研究成果を積極的に公表することだけでなく、国内外の研究者との共同研究の実施も視野に入れて計画している。物品費使用計画は、評価用血液循環システム設計をすでに終了した段階にあり、早急にシミュレーションモデル構築に使用する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
その他費目に計上する主として斃獣処理費用は次年度に該当処理を行うこととし、また本研究最終年度での研究成果発表のための旅費、およびシミュレーションモデルおよび埋め込化を目標とした小型末梢循環評価システムの構築に物品費を使用予定であり、本研究計画に則って大きな違いなく遂行する。
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