本研究では、非線形ラマン分光イメージングを用いて、非破壊・非侵襲・非染色・非標識にてiPS細胞の分子イメージングを行い、多能性を有する良質なiPS細胞を識別・スクリーニングする新しい手法の開拓を目指し、装置開発と測定とを行った。今年度は、研究室で開発したマルチプレックスcoherent anti-Stokes Raman scattering(CARS)顕微鏡の光源をスペックアップすることで、信号強度の大幅な増強を実現した。すなわち、高繰り返し周波数(1MHz)、短パルス幅(86ps)、高出力(1W)の白色レーザー光源を導入し、レーザー基本波の1064nmの光パルスと光学的に同期させることで、高効率CARS発生を実現した。モデル細胞株であるHeLa細胞にて測定を行ったところ、M期において、染色体や紡錘糸等をCARSや第二高調波発生(second harmonic generation)などの非線形光学効果で非染色可視化することが出来た。また、これと並行して、iPS細胞のCARSスペクトルにおける培養日数依存性を調べた。マウス線維芽細胞に4つの因子を導入することで細胞がリプログラミングされていく際に、細胞内で生じている分子科学的変化を追跡するために、因子導入後5日目と7日目の細胞の比較を行った。その結果、細胞核内の平均スペクトルにおいて、1560 cm-1(アデニン、グアニンに存在するプリン環由来)のバンドと790 cm-1(シトシンとチミンに存在するピリミジン環由来)のバンドに違いが見られた。これらは、リプログラミングに依存して変化するラマンバンドの可能性がある。
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