溶血とは赤血球からのヘモグロビン漏出である.溶血は高血圧や血栓症の要因であることから,医療機器開発においてその低減は喫緊の課題とされる.従来,溶血評価においては,せん断応力などの流体力学的条件が重視され,それに基づく溶血予測法が主流であった.しかし,その予測法では精度に問題があり,実用に耐えない.原点に戻れば,溶血とは赤血球の過度伸張による膜破壊(裂孔生成)である.そこで,本研究では,赤血球の引張試験をルミノール溶液中で行うことにより,膜の裂孔から漏出するピコグラムレベルのヘモグロビンを化学蛍光法により検出すると共に,計算力学を援用し,溶血が生じる材料力学的条件を赤血球単体にて定量化する. 研究期間内においては、以下の3つのことについて主に明らかにした。 1)赤血球破断ひずみ:赤血球を顕微鏡下にて単体で引張り試験を行うことにより、膜破断ひずみを調べた。破断ひずみは、平均で3~4程度であり、最大で5.32であった。 2)赤血球引張り試験の把持位置が破断ひずみに与える影響:引張り試験時には把持位置を精確に調整することが困難であった。そこで、把持位置が赤血球膜のひずみに与える影響をシミュレーションにより調べた。結果として、赤血球を正対する位置から把持する場合に比べて、ずらして把持した場合において、赤血球を1.5場合に伸ばしたとき、膜面上の最大第一主ひずみは3倍以上大きくなり、赤血球の中央以外に応力集中することがわかった。 3)溶血の可視化:赤血球をルミノール溶液中で破壊した。これによって生じる光をEM-CCDカメラで捉えたところ、赤血球の位置と発光位置が重なることがあきらかとなった。これにより、EM-CCDカメラにより二次元的であるが、ルミノール反応により溶血発生位置を検知することができることがあきらかとなった。
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