研究課題/領域番号 |
26560202
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神保 泰彦 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20372401)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 神経科学 / 神経工学 / 細胞・組織 / ナノバイオ |
研究実績の概要 |
パーキンソン病は運動障害が主要な症状と考えられているが,その発現時には神経変性が既に相当程度進行していることが知られており,早期診断・治療手法の確立が重要である.本研究では早期の症状の1つとされる不安やうつに関係する海馬と,海馬への投射を有しかつ早期の段階で神経変性が進むことが報告されている縫線核に焦点を当て,その共培養系を構築してセロトニンによる神経調節作用を可視化することを目指している. 計画初年度の平成26年度は,共培養系構築に向けて集積化電極基板上に2つのマイクロ細胞培養区画を設けた細胞培養皿の設計,製作を実施した.厚膜フォトレジストであるSU-8で幅50,長さ750,高さ5マイクロメートルのトンネル構造(細胞体は進入せず,神経突起の成長だけを導く高さとして想定している)を平行に34本配列した鋳型を作製し,ポリジメチルシロキサン(PDMS)で成形した.5×7 mmの方形細胞培養区画2つをこの並行トンネル構造を介して連結したPDMS構造物を64個のマイクロ電極を集積化した基板上に位置合わせして固定,細胞培養皿とした.Wistar Rat新生児から脳全体を摘出して厚さ300マイクロメートルの切片を作成,縫線核を含む切片を選択して該当部分をさらにメスで切り出し,酵素処理により単離,播種した.集積化電極アレイを有する培養皿上で4週間に渡って細胞群が生存,神経突起の成長が見られることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備的検討により,高さ5マイクロメートルのトンネル構造が細胞体が進入せず神経突起が伸長するサイズであることが想定されたため,神経調節系と標的系という2つの系をこのトンネル構造で結ぶパターンを設計・製作した.トンネル構造内の脱気など加工プロセス過程での技術課題はあったが解決できた.細胞培養に関しては,手法が確立されている海馬組織に比べて脳幹神経核は研究例が非常に少なく,解剖手技,培養条件の検討を要する状況でスタートした.系統的に切片試料を作成して該当部分を手動で切り出すという手続きでおおむね機能することがわかった.しかしながら,海馬等の組織に比べて神経核が顕著に小さく,従って得られる細胞数が少ないことから,安定した培養条件の確立に向けてさらに検討が必要になると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
2つの生体組織を1枚の基板上で共培養し,両者を分離した状態を維持しつつ組織間のシナプス結合を導く手続きを確立した.基板表面にはマイクロ電極が集積化されており,非侵襲的に電気活動を計測,あるいは電気刺激を印加することが可能である.今後は(1) 海馬,縫線核培養神経回路が示す自発電気活動パターンの計測,(2) 海馬/縫線核共培養神経回路を構成した場合の活動変化の観測,(3) 共培養系において縫線核神経細胞群の活動を電気刺激で増強した場合,逆に薬理刺激で抑制,さらには障害を与えた場合の影響の可視化,の順で実験を進める.以上の実験結果を統合し,パーキンソン病早期診断・治療手法の開発に向けて今後さらに検討すべき課題を整理,提示して本研究の総括とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画初年度は2つの部位から採取した細胞群を共培養する基板の設計,製作プロセスの最適化に注力したため,結果として細胞培養,電気生理計測に必要な試料,材料,試薬等の経費が予定より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の検討により,基板製作プロセス,細胞培養条件を確立することができた。平成27年度はこの条件を利用し,開発した基板上での細胞共培養,電気生理計測を実施する。目標達成に向けて実験を計画どおり進めることが可能な準備,環境が整っていると考えている。
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