パーキンソン病は運動障害が主要な症状と考えられているが,その発現時には神経変性が既に相当程度進行していることが知られており,早期診断・治療手法の確立が重要である.本研究では早期の症状の1つとされる不安やうつに関係する海馬と,海馬に投射しかつ早期に変性が進むことが報告されている縫線核に焦点を当て,その共培養系を構築して5-HTによる神経調節作用を可視化することを目指した.最初に集積化電極アレイ(MEA)基板上に2つの細胞培養区画を設けた細胞培養皿を設計・製作した.MEAは50 μm角の電極を4×8のマトリクス状に配置した領域2つからなるパターンとし,これに整合したPDMS製の細胞培養区画を設置,区画間は高さ5 μmのトンネル34本で結ぶ構造とした.5 μmという高さは神経突起のみが進入,伸長して神経支配形成することを想定したものである.Wistar Rat新生児から脳を摘出して厚さ300 μmの切片を作成,背側縫線核(DRN)を含む部分をメスで切り出し,酵素処理により単離,一方のマイクロ細胞培養区画に播種するという手順でDRN培養系を作成した.もう1つの培養区画には海馬(HC)ニューロン群播種して共培養した.トンネル内に神経突起が進入して成長する様子が確認された.MEAを利用した神経回路電気活動計測の結果,HCは同期バースト活動が認められるがDRNは非同期の活動のみを生じるという結果が得られた.HC単独培養の場合と比較して共培養系では同期バースト発生頻度がやや低下する傾向が認められたが,有意ではなく,電気刺激によりDRNの活動を人為的に増強した場合についても明確な差異は認められないという結果になった.免疫組織化学染色を利用した5-HT作動性ニューロン含有率の評価,発達段階に依存した自発電気活動パターン遷移過程の解明,シナプス形成の定量が必要であり,これらが今後の課題となる.
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