研究課題
本研究の主目的は、ストレスファイバー(タンパク質複合体によって形成された細胞内線維)の微細構造を明らかにすることである。前年度までに、独自抽出液を用いて細胞からストレスファイバーを抽出することができる系を作製していた。原子間力顕微鏡を用いた液中タッピングモード測定に基づき、培養ラット大動脈平滑筋細胞からストレスファイバーの断面形状が、従来想定されていたような円形ではなく、アスペクト比が0.2程度の扁平な楕円形状を有することを明らかにした。つまり、円形断面を有する線維はあらゆる方向からの外乱に耐えやすいのに対して、扁平断面(細胞の腹側に対して長軸をもつ)は特定の方向(細胞接着面の平面に対して垂直方向よりも、平行方向)への荷重変化に耐えやすい構造を備えていることが明らかとなり、ストレスファイバーの機能について構造力学的な考察をするうえで有益な情報を得ることができた。さらに、扁平断面を有するストレスファイバーが細胞外基質とどのように接続しているのかを明らかにするために、同線維の端部にある細胞接着について、同じく原子間力顕微鏡による液中測定を行い、その微細構造を調べた。特に非筋アルファ・アクチニンが細胞接着の構造形成に果たす役割に注目した。まず、細胞接着のうち、特に焦点接着斑と呼ばれる比較的大きな接着構造においては、ストレスファイバーの端部において直列状(点状)に結合されているのではなく、ストレスファイバーの外側部に沿って数umの長い距離に渡り面状に細胞外基質と結合していることがわかった。さらに非筋アルファ・アクチニンは、面状に接着した部分を積層化して構造を強化する役割があることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
ストレスファイバーおよびその端部の細胞接着の微細構造について新しい知見が得られ、分子レベルでの解析も進められているため。ただし、電子顕微鏡による実験準備にまだ取り組んでいるところである。
今回、ストレスファイバーの端部にある細胞接着について、非筋アルファ・アクチニンの役割を明らかにしている。そこで得られた構造力学モデルの妥当性の検証を、様々なアプローチから実施することが残された主たる課題である。
ストレスファイバーの三次元分子構造について、特に端部の焦点接着斑の構造について当初期待していた以上の新しい発見が得られている。しかし、その再現性実験の実施と、提示構造モデルの妥当性について様々な観点から検証実験を行うには、さらなる項目の実験を実施する必要があると考え、研究期間の延長を希望した。
次年度使用額は、全て残された実験を実施するための研究消耗品としての利用を考えている。
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