研究実績の概要 |
本研究はレーザ光照射の免疫活性作用に着目し,低出力近赤外レーザ光の皮膚また粘膜への短時間照射がワクチンに対する免疫アジュバントとして作用するという仮説を証明し,その作用機序を細胞ならびに分子レベルにて解明することを目的とした. まず,免疫機構を活性化するメカニズムに活性酸素種 (ROS) が関与しているという仮説を立て,レーザ照射強度に依存したROSおよび関連するサイトカイン産生量の定量を試みた.表皮角化細胞であるHEKaを4群に分け,1064 nmのCW DPSSレーザを用いてそれぞれ0, 0.052, 0.26, 0.52 W/cm2としてレーザを30秒間照射した.まず樹状細胞を粘膜へと誘導するケモカインCCL20の産生量をRT-PCR法を用いて測定し,さらにROSを定量するためにスピントラッピング剤DMPO (5,5-Dimethyl-1-Pyrroline-N-Oxide) を培地に添加し,細胞内のROSを捕捉し,電子スピン共鳴法を用いてレーザ照射によって産生されたROSを解析した. CCL20の発現量はレーザ照射に依存して増大したが,レーザ照射強度0.52 W/cm2では低下を示したことから,サイトカインの誘導には最適な照射の条件が存在することが示唆された.申請者らはマウスを用いた感染実験で同現象を明らかにしているが,それをin vitroで再現したことを示す結果である.また,電子スピン共鳴法によって細胞内で産生されたROSを解析した結果,レーザ強度に依存したROSの増大が認められ,レーザ照射による免疫活性化機構にROSが関与することが強く示唆された. 以上の結果から,レーザ照射によってヘムタンパクからガス分子が遊離し,ROSの産生を促進している可能性が考えられ,今後は細胞からミトコンドリアを分離し,ヘムタンパクとガス分子の関連に着目してメカニズムを解明していく.
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