本研究はレーザ光照射の免疫活性作用に着目し,低出力レーザ光の皮膚または粘膜への短時間照射がワクチンに対する免疫アジュバントとして作用するという仮説を証明し,その作用機序を細胞ならびに分子レベルで解明することを目的とした. マウスを使ったインフルエンザ感染モデルの実験にて,この近赤外光は既存のワクチンアジュバントと同程度の感染防御免疫誘導効果があること,また臨床研究により同用量の近赤外光照射がヒト皮膚に対し安全であることを明らかにした.近赤外光のメラニンに対する吸収係数は緑色光に比し約10倍小さく,比較的皮膚色によらない効果が期待でき,皮膚への照射に適している波長を選択していることが臨床応用への強みであると考えられた. 近赤外レーザ光が免疫反応を活性化する機序に関しては未だ不明な点が多いが,近赤外レーザ光照射が培養角化細胞での少量の活性酸素種の産生がシグナルの伝達を引き起こし,免疫刺激性のケモカインの産生を引き起こす事が示唆された.活性酸素の主なリソースはミトコンドリアであると仮説を立て,マウス肝臓組織からミトコンドリアのみを単離し,活性酸素指示薬L-012を添加しながらレーザ照射による活性酸素生成量を蛍光マイクロプレートリーダーにて解析したが,有意な変化は見られなかった.今後は感度の高い活性酸素指示薬の応用や,レーザ照射条件を最適化することで,生成する活性酸素量が免疫の活性化を評価する指標になることが考えられた.
|