研究課題/領域番号 |
26560225
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
福田 紀男 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (30301534)
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研究分担者 |
照井 貴子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (10366247)
小比類巻 生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40548905)
大山 廣太郎 東京慈恵会医科大学, 医学部, その他 (70632131)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノバイオ / 先端機器デバイス / 循環器・高血圧 / 分子イメージング |
研究実績の概要 |
(Ⅰ)マウスin vivo心臓において、心筋細胞内のナノ分子情報を抽出できる新たな顕微システムを構築した。すなわち、左心室心筋細胞内のサルコメアの動きを高空間(20 nm)・時間(100 fps)分解能で捉えることに世界で初めて成功した(J Gen Physiol 2016)。その結果、同一細胞内であってもサルコメア長には~300 nmものバラツキが存在すること、それらが同調することによって心拍が生み出されていることが明らかとなった。この計測は従来は不可能とされてきたが、我々は、光学技術を工夫し、多くの問題点を克服することに成功した。また、サルコメア長の変化分と左心室内圧とは強く相関し、サルコメアの収縮機構と心臓のポンプ機構との間にタイトなカップリング機構が存在することが明らかとなった。さらに、画像再構築法を独自に開発した。我々は、左心室内圧の波形を基準とし、これを17のフェーズに分割、各フェーズにおいて対物レンズをZ軸方向に動かすことによって焦点の合った画像を抽出した。実験後、画像を再構築し、心臓サイクルのすべての時点において焦点の合った動画を作成することに成功した。
(Ⅱ)Ca蛍光指示薬をマウス心臓に導入し、心筋細胞内のCa動態を高精度で観察することに成功した。従来、Ca動態はすべての心筋細胞において同調して生じていると考えられてきたが、我々はその常識を覆し、Caウエーブがランダムに生じていること、そして、それらが外部電気刺激によって同調することを見出した。また、Ca動態の新たな解析法を創出した。すなわち、共焦点下、Caウエーブ初期、心筋細胞内においてCaは円状に広がる。我々は、フレーム毎にCa拡散円の半径をナノ計測し、その拡散速度ならびにCa発火の原点位置を特定することに成功した(論文作成中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床で現在使用されている診断装置(X線-CT、MRI、超音波など)は精度が十分でないため(精度:~100 μm)、心疾患の超早期の段階で生じる心筋細胞内の微小な機能・構造異常を捉えることができない。本研究の目的は、光学顕微鏡をベースとした最先端のナノ計測技術を小動物in vivo心臓に応用し、時間・空間分解能のいずれの面においても従来の診断装置を凌駕する心疾患超早期画像診断装置の基盤技術の開発を行うことである。H27年度の研究によって、従来の装置の精度をはるかに上回るレベル(20 nm)で、心筋細胞内のサルコメアやCaの動態を計測する技術を開発した。これらの新しい計測法を病態心臓に応用すれば、心筋細胞内の興奮収縮連関がどのように変化しているかがin vivoにおいて明らかになるものと考えられる。これは、これまで定性的になされてきた心疾患病態の基準を物理化学の言葉によって厳密に再定義する第一歩となるであろう。以上の理由より、本研究は、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度に開発した装置を、代表的な心疾患の動物モデル(①拡張型心筋症、②肥大型心筋症、③異型狭心症)に応用する。①:申請者らは、制御タンパク質であるトロポニンT(TnT)に変異(一個のアミノ酸残基:K210)をノックインした拡張型心筋症(DCM)マウスを有している。このマウスでは、心筋細胞が大きくなっており、サルコメアの収縮反応が減弱していることを報告している(J Mol Cell Cardiol 2013)。このマウスは、ヒトのDCMに近いモデルとして世界的に注目されている。H28年度、収縮機構の変化のみならず、心筋細胞内Ca情報や突然死の原因を、in vivoで、かつ分子論的に明らかにする。②:マウスの大動脈を狭窄し、左心室に負荷をかける(内圧の上昇)。このモデルは、肥大型心筋症(HCM)から心不全に確実に移行する。HCMから心不全に移行する際、興奮収縮連関がどのように変化するかをナノスケールで明らかにする。③:申請者らは、ラットの心臓にアセチルコリン(またはメサコリン)を冠動脈に注入し、日本人に多い異型狭心症のモデルを作出することに成功している(Jpn J Pharmacol 1996)。異型狭心症は心室細動に移行するケースも多く、突然死をもたらす。拍動リズムの破綻がどのように生じるのかを明らかにする。また、臨床で使われている薬物が上の①~③の疾患に対してどのような効果を示すのか、細胞内情報を分析する。これらの研究によって各心疾患の病態を厳密に定義し、マウスレベルでの心筋ナノイメージング技術を完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度、心筋ナノイメージング装置を大幅に改良し、世界で初めてin vivoマウス心臓内のサルコメア動態を計測することに成功した(J Gen Physiol 2016)。また、この方法を応用し、心臓内部における心筋細胞内Caウエーブのナノ計測にも成功した(論文作成中)。これらの装置の大部分は申請者らが自作し、また、ソフトウエアも独自開発したために、当初の予定よりも経費を大幅に抑えることに成功した。そのため、607,623円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度は、H27年度に完成したin vivo心筋ナノイメージング装置を様々な心疾患モデルマウスに適用し、心筋細胞内のサルコメアやCaの動態が正常動物と比べてどのように変化しているかを探る。一般に、病態動物は侵襲に弱く、正常動物よりも多くの実験を必要とする。したがって、本経費を、マウスはもちろんのこと、様々な試薬や麻酔薬の購入に充て、最大限の成果を得ることに努める。
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