研究課題/領域番号 |
26560242
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
中村 隆範 香川大学, 医学部, 教授 (70183887)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 血清 / FBS / LDL / リポタンパク質 / アルブミン / 有機酸 / T細胞 / Jurkat |
研究実績の概要 |
本研究では、動物血清に含まれる細胞増殖促進/阻害や細胞接着制御に関わるタンパク因子群および脂質、有機酸を、浮遊血球系細胞をモデルに同定・プロファイリングし、100%輸入牛胎児血清(FBS)に頼る細胞培養法の改善を図ることを目的としている。また、同定した増殖因子・接着因子群の添加や脂質合成酵素群の遺伝子導入による血清(LDL)に依存しない細胞株の簡便な樹立法も確立したい。 平成26年度は、補体成分C4bp, H因子及びリポ蛋白質LDLの浮遊血球系細胞の細胞接着・増殖に及ぼす効果や、FBSやブタ血清から増殖に必須のタンパク因子群の同定、脂肪酸や有機酸の効果などを調べることを計画した。さらに、LDL低依存性のJurkat細胞株を参考に、他の細胞系でも同じ方法でLDL低依存性株の樹立が可能かどうか検討することを計画した。その結果、(1)C4bp,H因子及びLDLの血球細胞接着と増殖への効果をT細胞(Jurkat,Molt-4)で比較し、補体系因子が接着阻害をするものの増殖には影響しないこと、LDLは接着阻害とともに増殖促進効果があることを見出した。補体系タンパクの有効利用が考えられるものの、LDLなどのリポ蛋白質・脂質が細胞の接着・増殖制御により有効なことが考えられた。また、(2)必須脂肪酸であるリノレン酸,リノール酸に増殖促進効果はみられないものの、クエン酸やピルビン酸など有機酸に増殖促進効果が認められた。(3)FBSやブタ血清から血球系細胞の増殖に必須な細胞増殖因子の精製・同定を進めたが、アルブミンと分離することができなかった。しかし、植物細胞で発現させたアルブミンに増殖促進作用が認められたことから、アルブミンも重要な増殖促進因子であることが確認できた。(4)LDL除去血清中で馴化するLDL低依存性細胞株の確立の検討は実施できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)C4bp, H因子は補体系の制御因子と知られていているが、一方でその疎水性の性質のためか、浮遊系血球細胞が培養ディッシュに非特異的に接着することを効果的に阻害し得ることがわかった。ただし、補体系因子に増殖効果そのものが認められなかったことから、総括として、今後の研究において補体系因子のさらなる解析は中止することとした。(2)一方、LDLなどリポタンパク質の増殖に対する効果がさらに確認できたが、リポタンパク質は血液由来成分であり酸化されやすくて細胞毒性を表すこともあるので実際の細胞培養には不向きである。リポタンパク質に代わる代替の脂質成分のスクリーニングが必要とされる。(3)FBSやブタ血清から増殖に必須のタンパク因子群の同定を進めたが、血清の主要タンパク質であるフェツインやアルブミンの画分から増殖活性をうまく分離できなかった。そこで、血清の影響を受けていない植物細胞で発現した組換えアルブミンの増殖活性を調べたところ、明らかな増殖促進効果が認められた。このように、脂肪酸や脂溶性ホルモンの影響を除去した組換えアルブミンが、血清に依存しない細胞培養系のコンポーネントとして利用できることがわかった。(4)今年度、LDL除去血清中で馴化するLDL低依存性細胞株の確立に関して検討ができなかったが、これは充分な量のLDL除去血清が調製できなかったことによる。血清を低減する従来の馴化方法や、組換えアルブミンを利用した新しい馴化培地の開発など再検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初平成27年度の研究計画は、26年度の研究成果である新規増殖因子の同定にもとづく、増殖因子、脂質、有機酸を組み合わせた細胞培養用カクテル(無血清基礎培地)の試作と、Jurkat以外の細胞でも簡単に低血清(LDL)依存性細胞株を樹立する方法を確立し、さらに血清非依存性細胞株の樹立に至ることであった。無血清培養系から補体因子が除外されたことから、(1)27年度はLDLを代替する脂質のスクリーニングを急ぐ。対象とする脂質についてはすでに検討中であり、LDLには及ばないものの一定の増殖促進効果を示す候補を見出している。(2)この脂質と血清量を低減できることがよく知られている、インスリン,トランスフェリン,亜セレン酸(合わせてITSと略す)の混合物、組換えアルブミン、微量元素、抗酸化物質などを組み合わせた低タンパク質無血清培地の試作品を調製する。この低タンパク質無血清培地を調製する上で、必須の要件である組換えトランスフェリンは植物細胞で発現されたものが市販されていて、天然のトランスフェリンに匹敵する細胞増殖促進効果を持つことを確認している。(3)Jurkatで実施したLDL除去血清中で馴化するLDL低依存性細胞株の樹立法から、組換えアルブミン、組換えトランスフェリンを利用した新しい馴化培地の開発に転換するために再検討を開始する。(4)LDL低依存性Jurkat細胞株の樹立によって、コレステロール生合成関連酵素群の遺伝子を細胞に人工的に導入すれば、LDL非依存性株の簡便な樹立が期待できるようになった。そこで、遺伝子を高効率で導入できるHEK293、CHO細胞などタンパク発現系にも広く利用される細胞株について、コレステロール合成関連遺伝子を導入すれば実際に血清非依存性細胞株が樹立できるかどうか検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一に今年度の研究において、補体系因子の効果を解析することを中止することとしたために、高価な組換えタンパク質の購入が不要となったことである。また、今年度、LDL除去血清中で馴化するLDL低依存性細胞株の確立に関してほとんど検討ができなかったために、これにかかる消耗品の購入に対する費用がかからなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
LDL除去血清中で馴化するLDL低依存性細胞株の確立に関して検討を本格的に実施するため、市販リポタンパク質の購入、各種血清からのリポタンパク質の調製、組換えアルブミン、組換えトランスフェリンなどの購入に充てる。
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