毛様体筋およびチン氏小帯によって眼球内に懸架・支持されている水晶体が,毛様体筋の収縮弛緩によって形状(厚さ)を変化させ,屈折力を変えることで光を網膜上で結像させる機能(水晶体変形)であると考えられている。現在白内障手術後に移植する人工水晶体は,単焦点レンズである。そのため生体が本来有する調節機能を失ってしまっている。白内障手術自体が一般化し,その成績も単に視力向上だけではなく,生体が本来有している機能をいかに保持,さらに模倣するかという段階まで来ている現在,人工水晶体開発の次なる目標は調節能力の完全な回復である。水晶体が有する構造・機能の特徴を全て満たす「有機-無機ハイブリッドハイドロゲルを用いた完全調節機能を有する人工水晶体の創製」を目的とした。 水晶体嚢内で安定し高分子ゲルを存在させる為に,ゾル状態の2種類の高分子鎖末端に反応性官能基(高分子A:アミノ基,高分子B:活性エステル)を有するマルチアーム親水性高分子を水晶体嚢に注入する直前に注射器内で混合し,注入直後に嚢内で高分子末端間化学架橋ゲルを可能にした(インジェクタブル人工水晶体)。無機ナノ粒子としてかご型シルセスキオキサン(POSS)をゲル網目内に共重合することで,水晶体の屈折率1.43をハイドリゲルで達成することが出来た。またゲルには細胞毒性が観測されなかった。さらに,この方法論で調製されたゲルは,水晶体嚢を隙間なく充填するために,後発白内障の発症を抑える効果も見出された。調節作用の発現は,副交感神経刺激薬剤ピロカルピン点眼薬を用い,点眼前と点眼1時間後の等価屈折度数の差と,前房深度の変化を指標として行い,良好な結果を得た。
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