一般的に体内への薬剤輸送には注射針とシリンジで構成された注射器を使用している.この注射器は汎用性が高く,処置が短時間で効果が得られるメリットがあり,医療現場で広く使用されている.しかし,針挿入時の痛みや感染症,注射針の廃棄処理などの問題があるのに加えて医療従事者によるスキルが必要となる.近年,糖尿病患者の増加に伴い,自己注射の重要性が高まっており,患者自身がより安全で手軽に注射行為を実施できる注射器の開発が望まれている.このような背景から,新たな薬剤輸送手段として,無針注射も注目した. 無針注射器は,注射針を介さず経皮的に薬剤輸送する方法であり,従来の注射器の感染症や医療廃棄物の処理問題等の解決が可能となる.本研究では粉体注射に着目した.粉体注射は薬剤を塗布した微小な粉体粒子を高速度で飛翔させて体内に輸送をする方式で薬剤となる個々の粒子の質量や体積が小さいため,生体投与時の痛み軽減や神経,血管などの組織を損傷させることなく安全に体内への輸送が期待されている.ここでは,予防接種への適用を目指して表皮生細胞層への投与をターゲットとした.今までに小型衝撃波管駆動の粉体注射器の設計・製作を行い,高速度で飛翔する粉体粒子の速度測定や生体を模擬したPVAハイドロゲルへの粒子貫入試験を行った. 本年度は,生体貫入に向けて貫入時に影響を与えるパラメータの調査を行うことを目的とした.そこで,実験の初期条件を見直し,高速度カメラを用いて飛翔する粒子の可視化実験や模擬生体への粒子貫入試験を行った.本装置を用いることで,模擬生体に直線的に,かつノズル出口内径に対して小さな幅で粒子を貫入させることができた.粒子速度は低圧室内静圧の影響を受けていると考えられ,貫入深さにも同様に影響を与えることが分かった.その結果,最も効率よく多くの粒子を深くまで貫入させられる実験条件の存在が明らかになった.
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