研究課題/領域番号 |
26560245
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 智典 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (00162454)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / ヘマグルチニン / ペプチド / 熱力学解析 / エンタルピー |
研究実績の概要 |
インフルエンザウイルス (IFV) はその膜表面に存在するヘマグルチニン (HA) が細胞表面のシアル酸含有糖鎖に結合することで感染が開始される。そこでHAに特異的に結合する分子はウイルスの感染阻害剤としての利用が期待される。これまでに、ファージライブラリー法によりHAに結合する糖鎖ミミックペプチドが獲得された。得られたペプチドについてClustal Wを用いた相同性解析を行ったところ、H5型HAとペプチドの結合は親水性のアミノ酸が結合に関与している可能性と疎水性のアミノ酸が結合に関与している可能性があった。そこで本研究では、等温滴定型カロリーメーター (ITC) を用いて相互作用の熱力学的解析を行った。 大腸菌より発現させたH5型HAのSDS-PAGE、Western Blottingを行った結果、目的の分子量付近にバンドを確認できた。また、H5型HAとの結合活性をアビジンービオチン複合体法で評価したところ、ペプチドについてはサブマイクロモルオーダーの結合定数が得られた。また阻害実験の結果、H5型HAは糖と結合していることが確認できた。 H5型HAのITCを用いた解析の結果、親水性のアミノ酸が結合に関与していると推測されたH5-18-bK、疎水性のアミノ酸が結合に関与していると推測されたH5-17-bK及びD1-bKのすべてが6’-SLNと同様にエンタルピー支配的に結合していることが確認できた。配列により大きなエンタルピーが得られており、水素結合の数の違いが示唆された。ペプチドの相同性配列と熱力学的パラメーターについての相関性は見られなかった。これにより、配列に関わらず、決まった水素結合の形成がヘマグルチニンとペプチド間の相互作用に関与していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には、従来の研究において相同性配列解析を実施したペプチドを用いてヘマグルチニンとの相互作用での熱力学的パラメーターの決定を実施し、糖鎖との比較も行なった。これにより、ヘマグルチニンの受容体認識部位が寄与した分子認識における、熱力学的パラメーターが明らかとなった。また、糖とペプチドの熱力学的な要因が一致しているという興味深い結果が示された。当初は配列の違いにより、熱力学的パラメーターの大きな違いも予想したが、一定数の水素結合がペプチドータンパク質間の相互作用に寄与していることが示された。次年度の展開につながる成果が得られた事から、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ファージライブラリー法ではランダム領域が15残基の場合には理論的には全てのペプチド配列を網羅していない。そこで、初年度に得られたモチーフを基にして分子進化工学的な手法により親和性の向上した配列を獲得する。ランダム化する領域として全体および特定の領域のいずれかを設定する。親和性解析を基にして、コンセンサスモチーフあるいは水素結合可能なアミノ酸を保存し、非極性のアミノ酸を再度ランダム化することなどを試みる。以上の手法により再度ランダム化した塩基配列をファージベクターに挿入し、宿主大腸菌に導入することで変異配列を提示したファージライブラリー(サブライブラリー)を調製する。構築したサブライブラリーを用いて、HAに対してバイオパニングを行い、結合活性の向上したペプチド配列を探索する。混合塩基法により親和性が向上しない場合には他の分子進化工学的な手法や化学的な方法を実施する。 上記で得られた分子進化した配列を用いて親和性の評価を行う。特に、進化前後での配列における、水素結合形成可能なアミノ酸および非極性のアミノ酸の親和性への寄与を分子レベルで解析する。特にアミノ酸の配列に依存した熱力学的なパラメーターの寄与を明らかにする。そのためにITCやドッキングシミュレーションでの測定を元にして、熱力学的な推進力に寄与するアミノ酸の特定を行なう。
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