本年度は、ヒトiPS細胞由来ニューロンを用いた3次元組織モデルの構築に向けた培養技術の検討を行った。具体的には、神経細胞シートの積層化による3次元培養技術と脱細胞脳組織を用いた3次元培養技術を検討した。神経細胞シートの積層化技術は、温度感受性基板上にヒトiPS細胞由来中枢ニューロンおよびアストロサイトが2から3層になるように培養し、培養中に剥離して積層化する手法を試みた。4℃下で基板から剥離させ、その後の神経ネットワーク活動を平面微小電極アレイ(MEA)計測法で計測したところ、ネットワーク全体から電気活動が観察され、機能維持が確かめられた。また、剥離後の神経シートを免疫染色したところ、シナプス形成の維持も確認された。剥離したヒトiPS細胞由来神経シートを重ねて培養することにも成功したことから、3次元培養技術として有効であることが示唆された。脱細胞脳組織を足場とした培養技術は、東京医科歯科大学生体材料工学研究所物質医工学分野との共同研究にて行った。ラット大脳を冠状スライスした薄切脳を、高静水圧処理により、脱細胞化脳を得た。脱細胞化処理後も脳の形態が維持され、未処理脳に類似した組織構造を示した。得られた脱細胞化脳上に神経細胞を培養したところ、海馬、髄質に比べ大脳新皮質に有意に接着し、神経突起の伸長を共焦点レーザー顕微鏡にて確認した。一部においては、脱細胞化脳の構造を反映した神経ネットワークの形成が観察されたことから、脳構造を模倣した3次元神経組織モデル構築の可能性が示唆された。
|