近年研究代表者らは、細胞足場機能と遺伝子導入機能を併せ示すgene-activating scaffold構築のための要素技術として、リン酸カルシウム(CaP)過飽和溶液中での共沈反応を利用し、DNA-CaP複合体による遺伝子導入技術を開発してきた。 平成27年度は、CaP過飽和溶液を用いてポリスチレン基材表面に集積させたDNA-CaP複合体(表面集積型)の遺伝子導入機能を調べ、最適な共沈反応条件を見出した。また、DNA-CaP複合体の生成過程を調べた結果、この最適化された条件下では、まず均一核形成によってDNA-CaP複合体のナノ粒子が過飽和溶液中で生成し、同粒子がサブミクロンサイズにまで成長した後、基材上に沈降・集積していくことが明らかになった。 そこで平成28年度は、この集積前のDNA-CaP複合体粒子(液中分散型)を用いた遺伝子導入法について検討を行った。まず、平成27年度の濃度条件の検討結果を参考に、CaP過飽和溶液のCaおよびP濃度を変化させ、DNA-CaP複合体からなるサブミクロン粒子を複数種合成した。この際、複合体粒子に振動(voltexによる)を与えることで、粒子の分散性と均質性の向上を図った。得られた液中分散型のサブミクロン粒子を培養細胞に作用させ、遺伝子導入機能評価の結果に基づき合成条件を最適化した。最適化されたDNA-CaP複合体粒子(液中分散型)は、昨年度最適化した表面集積型のDNA-CaP複合体と同等の遺伝子導入機能を示すことが明らかになった。また、コントロール(遺伝子導入剤なしで培養した細胞)に対し細胞viabilityの有意な低下は認められなかった。本CaP過飽和溶液中で生成するDNA-CaP複合体粒子に振動刺激を与えることで、細胞への遺伝子導入に適したDNA-CaP複合体粒子(液中分散型)を得られることが分かった。
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