心筋梗塞治療に対する細胞移植療法において、拍動する自己由来心筋細胞移植が有効と考えら れているが、細胞の入手は困難である。本研究は、自己由来細胞から拍動心筋細胞へと高効率で 分化誘導する人工ニッチ基材の開発を目的とする。自己由来細胞としては、移植におけるリスクが低い間葉系幹細胞(MSC)を第一選択とし、テラトーマ生成などのリスクを有するものの分化効率の高い iPS細胞を第二選択とする。近年、幹細胞の分化誘導ニッチとして①メカニカルキュー、および、②細胞外マトリックス組成が注目されている。そこで、両者を高度に再現することが可能な脱細胞化組織を人工ニッチ基材とすることで、高効率な自己心筋細胞分化誘導に挑戦した。 MSCおよびiPS細胞を、ブタ由来の脱細胞心筋、脱細胞肝臓、および脱細胞脳組織上にて、心筋細胞、肝細胞、神経細胞への分化誘導を試みた。我々の高圧脱細胞システムでは、界面活性剤を用いないために、残存界面活性剤による細胞接着性の低下が阻止できることが、明確となった。しかしながら、脱細胞脳組織上では、その組成的特徴のために細胞接着性が十分ではなく、細胞塊を形成したために、ニッチ基材の影響が十分に評価できないと判断して、心筋および肝臓について詳細に検討した。それぞれ、特徴的遺伝子のRT-PCR定量により解析した結果、幹細胞の分化誘導効率は、対応する脱細胞組織上で高効率となることが示された。また、心筋細胞に関しては心筋関連転写因子による特徴付けと、拍動関連遺伝子による機能的特徴化を詳細に検討した。この両者は、異なるニッチ基材が適当である可能性が示され、生体内での発生挙動における細胞外マトリックス組成の経時的変化を再現する等の時系列的制御も可能と考えられた。プロジェクト終了後にも、この点に着目して、さらなる高効率分化誘導を進める計画である。
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