研究課題/領域番号 |
26560265
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研究機関 | 西南女学院大学 |
研究代表者 |
甲斐 達男 西南女学院大学, 保健福祉学部, 教授 (60331899)
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研究分担者 |
石本 祐子 西南女学院大学, 保健福祉学部, 助手 (10441867)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 摂食・嚥下障害 / 音声解析 / 診断 / 予知 |
研究実績の概要 |
本研究は、摂食・嚥下に関わる咽頭部位が構音に関わる部位と同一領域であることに着目して、摂食・嚥下障害を音声解析で予知しようとすることを目的としている。本研究の成否は、健常者には無く、摂食・嚥下障害者にのみに存在する「音声マーカー」をいかにして見つけ出すかにある。これまで、摂食・嚥下障害者を一時的に緩和することができるアイス・マッサージとK-ポイントマッサージを同時に施術するその前後において、高齢者を対象にして解析に用いる発語候補を探し出した。今年度は、嚥下困難の初期症状を呈している①79歳女性、②59歳男性について、これまで確立した手法の成否を確認するための予備実験を行った(学会・学術誌などでの公表を予定していないので倫理審査を受審していない)。結果として、嚥下障害を示す音声マーカーを明確に突き止めることが出来なかった。そこで、あらためて、音声マーカー候補を以下の手法によって再検索した。
1.嚥下障害改善ワード(嚥下障害改善のためにボイストレーニングに実際に用いられているワード)「パ」「タ」「カ」「ラ」が加齢に伴う変化を示すかどうかを観るために、3世代(20代、50代、70代以降)・男女・複数の被験者(健常人)で音声解析を実施した。尚、ここで行った実験は、実験手法を確立するための予備実験であり、学会・学術誌などでの公表を予定していないので、倫理審査を受審していない。本予備実験の結果として、新たな候補として得られた音声マーカーは、男女間差のない加齢に伴う変化を示すものであり、ネガティブコントロールワードでは差がなく、嚥下障害改善ワード「パ」「タ」「カ」「ラ」では差が観られることから有力候補であると考えられた。
2.上述した実験と同じ条件下において、サンプル数を増やして検討するために、次の三つのコーパスを用いて、あらゆる発語において音声マーカーとしての可能性を詳細に検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.解析パラメーターの選定:予備実験を繰り返している途上であるが、新たな嚥下障害者特有の「音声マーカー」の候補をいくつか見出した。これまでスペクトログラム(広帯域・狭帯域)の3kHz周辺に着目していたが、10kHz以上の高周波数領域のパターンにも着目する必要性を見出した。
2.解析方法の確立:(1)スペクトログラム(広帯域・狭帯域)を観るための多くの市販ソフトの中で、いくつかのソフトを組み合わせて使うことで解析精度が上がった。この検討は、現在も継続している。(2)診断精度を上げるために、録音した「声」を音響ソフトで調質・変化させた後、スペクトログラム(広帯域・狭帯域)をとることで、摂食・嚥下障害者特有の「音声マーカー」をより鮮明に見分けがつく可能性を見出した。この検討は、現在も継続している。
3.研究用音声の収集条件:(1)今回採用した次の三つのコーパスを利用することが有効であることが判った。①身体情報付き男・女・子どもの母音音声データベース(国立情報学研究所 音声資源コンソーシアム発行)、②AWA長期間収録音声コーパス第1期(国立情報学研究所 音声資源コンソーシアム発行)、③鶴岡調査音声データベース91-92(国立情報学研究所 音声資源コンソーシアム発行)(2)摂食・嚥下障害を発症した患者から、音声を採取する実験条件は整った。
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今後の研究の推進方策 |
1.音声マーカー候補の確定:(1)現在実験に利用している三つのコーパス(音声資源コンソーシアム)には年齢構成別の音声が豊富に揃っているので、臨床実験に進む前に、確実な音声マーカーを捉えるべく、徹底的に解析を進めたい。(2)毎年、新たなコーパスが整備され公表されているので、利用価値のあるものについては実験材料として採用して行く。
2.解析精度を上げるための検討:「音声マーカー」をより鮮明にするためのソフトとして、「イコライザー」「コンプレッサー」「フェーザー」の3種類が見つかった。3機種ともに、特徴がかなり異なる機種が数多く市販されているので、ひとつひとつ詳細に検討して行く作業を継続している。(1)スペクトログラム(広帯域・狭帯域)を観るための多くの市販ソフトの中で、いくつかのソフトを組み合わせて使うことで解析精度が上がった。この検討は、現在も継続している。(2)診断精度を上げるために、録音した「音声」を音響ソフトで調質・変化させた後、スペクトログラム(広帯域・狭帯域)をとることで、摂食・嚥下障害者特有の「音声マーカー」をより鮮明に見分けがつく可能性を見出したので、この手法の確立を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
健常者と摂食・嚥下障害者の音声録音を予定していたが、解析用の音声マーカーを再検索することになったため、実施しなかった。また、今回、実験手法の確認実験に嚥下障害の初期症状を呈している二名の被験者の音声を使用したが、予備実験において協力して頂いた被験者と同様、謝礼金が不要であった。
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次年度使用額の使用計画 |
解析に利用できる音声マーカーを得るために予想以上の時間と労力がかかることが分かったため、そのための人件費、解析用ソフト、解析機器および消耗品類に充当したい。臨床実験に踏み込むことができた際には、予定通り謝礼金を支払いたい。
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