20歳代、50歳代、70歳代の男女各3名(合計18名)について、摂食・嚥下障害を一時的に緩和する処置(アイスマッサージ)を行う前と後で、「ぱー、たー、かー、らー」の4種の発語、つまり114音源を、スペクトログラム(広帯域と狭帯域の双方で)と、フォルマント周波数の3側面から解析した。その結果、解析パラメーターとしてはスペクトログラムの方が優位であった。スペクトログラムについては、これまで、アイスマッサージによってフォルマントの一部が鮮明化していたが、今回初めて、薄くなるケースも観察された。そこで、フォルマントの濃淡に「変化」が出現するか否かを指標として比較検討を行うことにした。20代と比較して50代・70代で濃淡差が増加し、かつ、男女差がほとんどないことから、加齢に伴う変化を解析するにはこの解析手法は有効と考えられた。広帯域と狭帯域では、「ぱー」の発語に比べて他の3つの発語でより高頻度の差が出現したが、どちらか一方の帯域に頼らず双方の帯域を観察する必要性があった。しかしながら、濃淡差の出現頻度はいずれの発語、帯域においても約5割程度であった。この結果から、4種の発語について、そもそも加齢に従ってスペクトログラムに有意差が出てくるのかどうかをより多くの音源をもとに確認する必要が生じた。そこで、国立情報学研究所の音声資源コンソーシアムが収集した音源コーパスの中から、年齢差の解析が可能な3つのコーパス音源を用いて、740発語を比較解析した。その結果、克服すべき次の問題点が明らかとなった。ひとつは、スペクトログラムは個人の濃淡差が大きくこれを標準化する技術開発が必要であること、もうひとつは、スペクトログラムは大変複雑な紋様として出現するので、大量のデータから一定の法則を見出すには、目視ではなく数値として変化を捉えることが重要となることである。
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