大脳皮質一次運動野の興奮性操作は,脳卒中片麻痺をはじめ,いくつかの疾患に対する有効な治療として期待されている。これまでは,非侵襲的に脳刺激を行う方法である経頭蓋磁気刺激を用いた連発法によって一次運動野興奮性を操作する方法が開発されてきたが,てんかんリスクなど,汎用化するにはリスクが残る点が限界であった。また,電流を付与する方法として経頭蓋直流電気刺激に関する研究もなされているが,この場合には電極を直接皮膚に貼付することから火傷のリスクを完全に消去することは困難である。また,いずれにしても,電源や特定の装置が必要である。 それに対して,近年,健康な被験者の頭蓋に永久磁石を設置することで静磁界を付与し,一次運動野の興奮性を低下させることができると報告された。これまでの報告では,興奮性を低下させることに限定されている。もし一次運動野の興奮性を高めることができれば,治療としての有効利用が現実的になるが,現時点でそのような報告はない。そこで当該研究では,永久磁石を用いて一次運動野興奮性増大を可能にする方法を確立する挑戦的開発を行なうこととした。 対象は健康な若年成人とした。異なる磁界強度(45MGEo,48MGEo)の永久磁石を用いて,静磁場刺激を20分間行なった前後に一次運動野の興奮性を評価した。評価指標は,単発経頭蓋磁気刺激により誘発された運動誘発電位とした。結果としては,磁界強度が45MGOeと48MGOeの場合は,どちらの磁界強度においても一次運動野の興奮性は変化しないことが示された。
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