研究実績の概要 |
高次脳機能障害における対人技能拙劣は社会復帰の阻害因子でありコミュニケーション面のリハビリテーションは重要である.表情研究では2者間で一方の表情表出に他方は同調した表情を示すと報告されており,先行研究にてこの表情応答を健常者,高次脳機能障害者間で比較した結果,健常者は同調を示すが,高次脳機能障害では表情応答の低下が示唆された.また,喜び表情が出にくくなる現象も認められており,脳損傷により喜びの感情が鈍麻し,他者への共感及び表情生起も低下してくると考えられる. 本研究では,まずは表情応答の発現に影響を与え得る要素を明らかにした上で,表情応答に対するリハビリテーションの効果を明確にする事を目的とする.本年度は健常者20名を対象とし①STAI(状態・特定不安検査),EQS(情動知能尺度)を測定.これにより表情応答に際する個人の心理・情動状態の影響程度が明らかになる.次に②表情応答の測定(2回測定)を行った.この際,モニターはプロンプター装置(MPL-16W,Life-on)を使用し表情刺激注視中の対象者の表情を撮影した.その後,対象者をランダムに2群に分け,鏡を見ながら表情筋のストレッチ,表情をつくる動作を行う群と各表情写真(笑顔・驚き・怒り)を提示し,その表情になった最近のエピソードを想起する群の2パターンを実施した. 表出された対象者の表情の分析は,喜び表情は口角の端が引き上げられるため,測定基準を左右の口角の距離とし,その2点間の座標距離を数式SQRT((XB-XA)^2+(YB-YA)^2)で求め前後で比較した. 結果として,①については各群において介入前の個人の心理・情動状態に差異はなかった.②表情応答に関しては,エピソードを想起した群に比べ表情筋のストレッチを行った群の方がより喜び表情を表出していた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の通り,健常者における比較検討は無事に終了した.健常者においては,エピソードを想起するよりも表情筋のストレッチ・表情をつくる動作を行った方がより他者の表情に対する表情応答が行われやすくなっていた.この結果を踏まえ,28年度は地域で生活をしている脳損傷者に対して同様の手続きで調査を行う予定である.
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