脳損傷後のリハビリテーションにおいては、受傷後の社会復帰が重要課題となる.なかでも高次脳機能障害における対人技能拙劣は社会復帰の阻害因子であり、それにはコミュニケーション障害が大きく関与していると思われる.表情研究では2者間で一方の表情表出に他方は同調した表情を示すとされており、筆者が行った先行研究では高次脳機能障害により他者の喜び表情に対する応答低下が示唆された.さらに、そうした表情応答に対して表情筋ストレッチにて変化が生じるかを健常者で検証したところ、ストレッチにより表情応答が有意に高くなった. そこで28年度に引き続いて、脳損傷により実質的な復職にはつながっていない脳損傷者において、喜び表情提示時における表情応答と表情筋ストレッチによる応答状態の変化について検証を加えた. 介入前の状態・特定不安検査における状態不安の平均は42.125で2名が高不安に位置していた.情動知能尺度における下位因子の「喜びの共感」は平均9.56±2.31であり、尺度の標準化標本6.86±2.49よりは高い結果であった.喜び表情注視中の表情応答を表情筋ストレッチ前後で比較したところ、ストレッチ後には有意に表情応答が高くなっていた(p=.001). 脳損傷者における笑顔注視中での表情応答において、表情筋ストレッチ施行前後で比較したところ、表情筋ストレッチ後では他者の喜び表情注視中に笑顔を表出することが多くなっていた.他者との円滑なコミュニケーション時に必要となる同調的な表情表出が表情筋のストレッチといったアプローチにより改善することが示唆された.
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