失語症者等の言語能力の回復のためには、集中的訓練に加えて長期訓練が必須である。本研究では、失語症者が在宅において単独でも実施可能なバーチャル言語訓練システムの開発を行うことを最終目標とする。コンピュータの仮想空間内に出現したバーチャルセラピスト(V-ST)が、言語訓練におけるセラピスト(ST)役を務め、クライエント(CL)は時間や場所の制限を受けずに自分のペースで繰り返しかつ集中的な訓練を実現する。 一方、STは通常の訓練において「CLへの配慮や気遣い」を非常に大切にしており、V-STにおいてもこれを実現することが望ましい。本研究では、CLの心身状態を生体情報によって客観的に把握し、STが大切している「CLへの配慮や気遣い」を再現できるかどうかについても検討した。具体的には、心電図計測から得た心拍変動解析結果(HRV)がCLの心身状態の客観的把握のために有効な指標となり得る可能性を見いだしており、その確証のためのHRVデータ蓄積を行ってきた。 平成29年度は、心電図計測において電極コードを無線化し、被験者の測定環境を飛躍的に向上させ、身体的・精神的負担を大幅に軽減した状態でHRV解析を実施し、従来法で得られた結果以上の新知見が得られることを確認した。V-ST訓練はCLが自宅等において単独で実施することが前提であり、心電図等の生体情報計測を行う際に、簡便で自動的、すなわち本人が無意識で無自覚のままに実施されることが理想的である。CLが特別な操作をすることなく、知らず知らずのうちに各人の生体情報の測定や蓄積を行う無意識生体計測技術の開発が必要となるが、今回の無線方式による心電図計測はその足掛かりとなる基盤技術であり、本研究の最終目標であるV-ST訓練の実現の可能性が示された。
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