従来、姿勢調整・制御においては視覚、体性感覚、迷路系の感覚が関与していると言われているが、これらの感覚だけでは説明出来ない現象がプッシャーシンドロームを呈する患者には認められる。その理由について先行研究では内臓臓器からの感覚情報が姿勢制御に関与しているのではないかという考えが提唱され始めている。しかし,その説を支持するために内臓臓器由来の変化と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究として、内臓臓器の重量変化、内臓臓器の動きによる体幹内部の重量物の移動、内臓臓器の形や大きさの変化による他の臓器との位置関係の変化、さらに脈管系の中にある血液や水分量や位置変化など、これらの変化や内臓臓器由来の感覚情報と姿勢制御能力との関係について客観的に調べた研究が見当たらない。 仮にこれらの説が正しいとするならば内臓臓器の重量変化や運動、また内臓臓器由来の感覚情報と姿勢制御の関係を明らかにする必要性がある。姿勢を保つ際や運動を行う際には、重力の影響を踏まえた姿勢調節・制御を行わなければならないからである。それゆえプッシャー症候群を呈する患者だけでなく、われわれの運動調節・制御におけるこれらの関係を明らかにする必要性が生まれてくる。 そこで平成27年度の本研究では摂食することにより胃の重量、形や大きさなど胃自体の動きや他の内臓臓器の位置関係と姿勢制御との関係について客観的に調べる研究を行った。具体的には安静椅子座椅において摂食前後の設定したランドマークの位置を測定し、その変化を算出した。その結果、飲水後に骨盤が静止しているのに対して第7胸椎や第7頸椎は前方に移動し統計学的に有意な差が認められたのに対して、摂食後においては有意差が認められなかった。この結果については、第2回日本基礎理学療法学会学術集会・日本基礎理学療法学会第20回学術大会(横須賀 2015)にて発表を行った。
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