研究課題/領域番号 |
26560322
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野崎 大地 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70360683)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 経頭蓋磁気刺激 / 皮質脊髄路 / 運動誘発電位 |
研究実績の概要 |
一次運動野が他の大脳皮質領域から受ける影響を明らかにするために、経頭蓋磁気刺激(TMS)用のコイル2つをそれぞれの領域に配置し、一方に与えた条件刺激によって、一次運動野から誘発される運動誘発電位(MEP)がどのように変化するかを調べるという方法が近年盛んに用いられるようになってきた。しかし、コイルのサイズや形状がネックとなり、近接した2つの領域にコイルを配置しTMSを与えることは不可能であった。本研究は、申請者が開発した、産業用ロボットアームにコイルを装着し高速かつ正確に動かすことのできる新型TMSシステムを用いて、一次運動野内の2箇所の間にどのような相互作用が存在するか、また、この相互作用が、身体運動制御の際どのような調節を受けているかについて明らかにすることを目的とする。
新型TMSを実際の被験者に適用可能かどうかを確かめるために、橈側手根屈筋(FCR)および上腕二頭筋(BB)を被験筋とした実験を行った。FCR, BBのMEPホットスポット(以下、FRC_HS, BB_HSと略記)を探索し、両方の場所の間を200ms以内で刺激用コイルが移動するように設定した。まず最初のBB_HSにTMSを加えて、その200ms後にFCR_HSにTMSを加えMEPを誘発したところ、BB_HSへの条件刺激によりFCRのMEPが増大した。BB_HSへのTMSはFCRのMEPを引き起こすため、これが原因でFCRのMEPが増大したとも考えられる。しかしながら、FCR_HSでコイルを固定し、同じ時間間隔(200ms)で二回のMEPをFCRから誘発したところ、一つめのMEPはBB_HSへのTMSによって誘発されるものと大きさが同等にも関わらず、二つ目のMEPは有意に小さくなった(皮質内抑制)。この結果は、一次運動野の隣接領域間には促通性の作用を持つ皮質内回路が存在することを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モーションキャプチャシステムにより、2cmの距離であれば200ms内に移動を完了させられること、また、一旦動き始めれば高い再現性で動作することを確認できたことから、本システムが十分実用に耐えることが示された。さらに、これまでマネキンでの検討に留まっていたことを考慮すれば、今回、開発済みの装置を実際の被験者を対象に実験できたことは大きな成果だといえる。この装置でなくては明らかにできない皮質内回路の存在の可能性も示された。二つのTMSの時間間隔短縮についても、レーザー変位計を応用することにより解決できる目処がついてきた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続きコイル移動速度およびTMS連発時間間隔の大幅な短縮を可能とするシステムの構築を目指す。具体的にはコイルの一部分にレーザー変位計のレーザーを照射し、その情報を元にTMSにトリガをかけることで、コイルが動きながら2つのTMSを与えられるように工夫する。 また、より多くの筋群から同時にMEPを取得し、複数箇所のTMSによって各筋から得られるMEPの相対的な大きさがどのように変化するかを検討する。また、複数の筋肉を共同してあるいは拮抗的に収縮させるトレーニングを行ったときの複数筋を支配する一次運動野領域間の相互作用がどのように変化するかを調べる実験を行う。
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