研究実績の概要 |
一次運動野が他の大脳皮質領域から受ける影響を明らかにするため、経頭蓋磁気刺激(TMS)用のコイル2つを各領域に配置し、一方に与えた条件刺激によって、一次運動野刺激によって誘発される運動誘発電位(MEP)がどのように変化するかを調べる方法が一般的となりつつある。しかし、コイルのサイズ、形状がネックとなり、近接した2つの領域(特に一次運動野内の2領域)の相互作用を調べることは難しかった。本研究では、産業用ロボットアームによってTMSコイルを高速度で動かし、連発刺激を加えることで近接領域の相互作用の強さを調べるシステムを開発することを目的とした。
モーションキャプチャシステム(Qualysis, OQUS)を用いた計測により、TMSコイルが極めて再現性良く正確に動作していることを確認した。コイルを頭皮上で2cm動かすために要する時間は最短で130ms程度であった。しかし、新たに導入したレーザー変位計(Keyence, LK2500)からの位置信号をTMS刺激装置へのトリガとして使用することで、コイルが動いている状態での連発刺激が可能となった。コイルのロボットアームへの取り付け位置を工夫することにより、最終的には2cm離れた二カ所を50ms以内の時間間隔で連発刺激することが可能になると考えられる。
また、上記システム開発と合わせ、一次運動野(C3からCzに向かって2cm上方の位置)から誘発されたテストMEPが、2cm前後左右に離れた4カ所への条件刺激によりどのように変調されるかという実験を行った(刺激時間間隔150ms、刺激強度は安静時閾値の150%、被験筋は第一背側骨間筋等8つの筋)。その結果、条件刺激ではMEPが生じないにも関わらずテストMEPが抑制されるパターン、条件刺激により同程度のMEPが生じているにも関わらずテストMEPの抑制程度が異なるパターン、など多様なパターンが観察された。近接領域間の相互作用を反映しているものと考えられるため、今後詳細に検討していく予定である。
|