平成26-27年度に撮影したトレイルランニングレースの分析結果から,不整地における走動作においては,エネルギー消費を抑えるために路面の粘弾性にあわせて下肢の粘弾性を調整していることが推測された.具体的には,落ち葉などの路面では,膝関節屈曲を小さくして着地時の重心高を大きく,逆に小石などの路面では膝関節屈曲を大きくして着地時の重心高を小さくする傾向がみられた.そこで,平成28年度は,実験室内に仮想的な不整地走路を設置し,より客観的なデータの取得を目指した.弾性路面に対しては体操競技用床に用いるバネを,粘性路面に対しては体操用マット(80mm厚)を用いた.またトレイルランニングレースの分析からは明確な対応動作が得られなかった路面の凹凸に対しては,300mm×300mm×18mmの板材を無作為に敷いた.さらに,弾粘性,凹凸の路面を組み合わせることによって,実験室内に様々な不整地の再現した. そしてモーションキャプチャシステムを用いて走動作を3次元計測し,キネマティクス的分析を行った.その結果,統計的有意な結果(5%水準)は得られなかったものの,トレイルランニングレースで得られた路面の粘弾性に対する動作の傾向を追認することができた.さらに,路面の凹凸(高低差)に対しては,路面が高くなった際に,下肢をより屈曲させて着地することで,身体重心の上下動を小さくする傾向がみられた.凹凸地に対するこの傾向は,路面の粘弾性に対する下肢動作の対応と同様に,エネルギー消費を抑えることに繋がるものと考えられた. 以上のことから,限られた条件下であることは否めないが,不整地における走動作(特に長距離走)においては,エネルギー消費を抑えることを優先するように動作を変化させていることが考えられた.
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