研究課題/領域番号 |
26560349
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石田 浩司 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 教授 (50193321)
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研究分担者 |
片山 敬章 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 准教授 (40343214)
佐藤 耕平 日本女子体育大学, 体育学部, 准教授 (00409278)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低酸素環境 / 急性高山病 / 換気応答 / 循環応答 / 脳血流 / 酸素漸減 / 酸素急減 |
研究実績の概要 |
26年度は、急性高山病のスクリーニングテスト作成のための実験法の開発を目的とし、常酸素運動中に様々な低酸素負荷を与え、その時の呼吸循環応答を測定した。低酸素負荷法として、常酸素から11.8%(高度4000m相当)の酸素濃度まで、ステップ状に急減させる方法(Acute; AC法)と、1分で1%の割合でランプ状に9分で低下させる方法(Gradual; GR法)を用いた。さらに、低酸素のみの影響を見るために、常酸素運動時の呼気終末炭酸ガス分圧に保つよう炭酸ガスを加える条件(Isocapnia; IC)と、登山を想定し炭酸ガスを加えない条件(Poikilocapnia; PC)を組み合わせ、計4試行とした。16名の男女大学生に、常酸素で40%VO2peakの運動を開始し、5分後に低酸素に切替えて引き続き15分間運動させた。 吸気酸素濃度は、GR法では切替え後、約1分の時間遅れで直線的に低下し、AC法では2呼吸以内に設定酸素濃度に達した。毎分換気量(VE)はAC法では指数関数的に増加して約5分で定常に達し、GR法では切替え後5分間はあまり増加しないが、それ以降は直線的に増加し約16分で定常に達した。20分後の定常値はGR法はAC法よりやや低値を示すが、有意差は認められず、両方法とも常酸素運動時より有意に高値を示した。一方、酸素飽和度(SpO2)は、定常値は両方法ともIC条件に比べPC条件で有意に低値を示した(平均70%)。これらの値は個人差も大きかった。 さらに、10名の被検者に対し、同様にPC条件で2つの低酸素負荷法を実施し、5分ごとに内頚動脈と椎骨動脈の血流量を測定した。これらの脳血流の変化は個人差が大きく、必ずしも低酸素で増えるわけではなかった。 以上の結果から、2つの低酸素負荷法の妥当性が確認され、各パラメータの個人差から急性高山病との関連が明らかになることが期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、低酸素環境で運動中の呼吸循環応答の測定法として、酸素濃度をステップ状に漸減させる方法を考えていた。しかし、低酸素発生装置をうまく制御すれば、酸素濃度をランプ状に低下できることがわかり、この方が実際の登山に近いこともあり、利用することにした。これは非常に斬新な方法である。一方、急激に低酸素に暴露した時の応答は、反応の速さや大きさ(ゲイン)を見るのに適した方法である。そこで26年度は、急激に低酸素にした場合と、徐々に低酸素にした場合の2つの低酸素負荷法を用いた。さらに、従来の低酸素に対する呼吸循環応答は、純粋な低酸素の影響だけを検討するために、低酸素性の過換気による低炭酸ガス血症にならないよう、炭酸ガスを加えるIsocapniaで測定されてきたが、実際の登山では炭酸ガスを加えることはなく、そのままの状態(Poikilocapnia)で運動が行われている。そこで、その2つの条件も組み合わせて実験を実施することにした。2つのコントロール試行(常酸素運動と低酸素安静)も含めた6試行を、16名の被験者が実施するため、多大の実験時間および分析時間が必要であったが、年度内に終了できた。 また、当初計画では26年度の残りの期間を脳血流測定の準備期間としていたが、上記の実験中に脳血流測定の準備が整ったため、残りの期間で10名の被験者に対し、AC法およびGR法のPC条件で、同様の実験中の脳血流を5分ごとに測定することができた。 さらに、27年度に実施を計画している、実際の登山経験者の測定に関して、穂高岳の夏季山の診療所スタッフとコネクションができ、早速、26年夏に5日間3000mの穂高岳に滞在した約30名に対して、高所滞在時の急性高山病のスコアと酸素飽和度を測定してもらうなどの予備実験を実施することができた。 このように、当初想定した以上に研究は進んでおり、非常に順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で一番の懸念事項は、高地での急性高山病のスコアが確認できる登山経験者を集めることであったが、26年度中にそのコネクションが確立できた。そこで、27年度は、高地滞在中の急性高山病のスコアが確認できる20名ほどを対象に、26年度に確立した低酸素運動中の呼吸循環応答を測定する実験を実施し、様々なパラメータと急性高山病のスコアとの関連性を明らかにする。さらに、それらのデータの検証および新しい検査項目の発見を目的として、27年度に穂高岳に同様に滞在する予定の別グループに、26年度と同様に急性高山病のスコアの記録と、平地帰還後に、前回同様の実験+アルファの改良された実験を実施し、より精度の高いスクリーニングテストを開発する。 最終年度の28年度は、そのスクリーニングテストによって急性高山病が本当に予知できるかどうか、前向き実験として、高所登山前にスクリーニングテストを実施して予知を行い、実際に高所で急性高山病にかかった否かを確認する。高地滞在については、当初の計画では、一般学生を募って富士登山を計画していたが、噴火の危険性などもあるため、対象の山を慎重に吟味し、乗鞍岳や木曽駒ヶ岳など、高度は3000m程度だが比較的に楽に登山できて噴火の危険性がない山に変更することも検討中である。また、うまく対象者が集まらなかったり、天候により登山を断念する可能性もあるため、この他に、穂高岳山の診療所のスタッフを対象に、前向き実験を実施することも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定と違う点は、まず、物品費としてマスクや心電図電極などの消耗品で60万円を計上していたが、節約して使用したり、備蓄分があったため、25万円程度で収まったことが挙げられる。また、被検者謝金も当初は50万円を計上していたが、実験方法を工夫し、2つの実験を組み合わせて1日で実施するなどで節約し、35万円に収まったことが挙げられる。 節約に励んだのは、次にも触れるが、27年度は、高地滞在の被験者がいる岐阜大学で予備測定する際の検者旅費や、被検者に本実験で岐阜から名古屋大学まで来てもらうための被検者謝金等が、かさむことが予想されるためである。27年度の予算はもともと少なかった(60万円)ため、26年度分を節約し、27年度にできるだけ繰り越すように配慮した。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度の当初予算の60万円と繰越金の約53万円を加えた113万円について、備品費として本年同様30万円、旅費も同等の20万円、被検者謝金等で50万円、残り(13万円)は、28年度の登山関係の旅費として繰り越す予定である。
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