投擲物を速く正確に投げる投擲課題では、時空間的に極めて精緻な運動制御が必要となる.本研究は,野球の投球中の指とボール間に働く力の作用を計測し,身体各部位の動きによって生じたボールの運動エネルギーを投球方向に制御する巧みな運動制御についての理解を深めることを目的とした. ボールに超小型・超軽量の力覚センサーを埋め込み、無線によってデータを取得するセンサーボールを開発した。このセンサーボールを用い、投球中に人差し指と中指が発揮する力を計測することに成功した。また、モーションキャプチャーシステムとの同時計測により、投球中の動作相との関連付けを行った。 指のそれぞれが発揮する合力は、概ね、個人内では投球速度と相関関係にあったが、個人内・個人間のデータをプールしてみると、有意な相関関係は認められなかった。合力の発揮パターンは、ボールリリースの30~50ms前に生じる肩関節最大外旋付近で最大のピーク(約160N)を迎え、リリース直前の約10ms付近で第2のピークを迎えることが多いが、第2ピークの存在には個人差や個人内の速度条件に影響を受けていた。速度が大きいほど、ピーク間の谷が浅くなり、第2ピークは目立たなくなっていた。また、個人差は法線方向の力の影響が強く、法線方向に顕著な二峰性を示すものと、示さないものがいた。 法線方向に垂直で、指と平行な方向の成分では、すべての投手において二峰性の力が観察された。この二峰性の第2ピークは、リリース直前に指先方向にボールが転がり始める時間と一致しており、わずか10ms未満の短い時間にボールの転がり具合を調整することでボールの投射方向と速度を調整しているものと推察された。 また、個々の指の力の発揮の仕方には個人差があり、人差し指優位タイプから中指優位タイプまで幅広くおり、この指の力の発揮の仕方により、パフォーマンスに影響をあたえるものと示唆された。
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