近年、科学的根拠に基づいた効果的・効率的なトレーニングプログラムが数多く考案され実施されているにもかかわらず、「筋肥大」を目的としたトレーニング法は数十年間変わっていないのが現状である。本研究では、レジスタンス運動時に吸引する酸素濃度を低下させ、骨格筋内の酸素化レベルを低下させた状態でレジスタンストレーニングを行うと、従来法よりも大きな筋肥大を引き起こすことが可能であると仮説を立てた。本研究は、この仮説を検証するために、骨格筋細胞は通常酸素環境下に比べ低酸素環境下で肥大が促進されること、および、筋肥大促進に適切な酸素濃度を決定した上で、人間生体において、吸引酸素濃度とレジスタンス運動時の筋酸素動態(酸素飽和度)との関係について検討し、最終的に、吸引酸素濃度に着目した、筋肥大に効果的な新たなトレーニングプログラムを開発することを目指す。骨格筋細胞を用いた実験において、低酸素状態に曝露した際の応答について検討したところ、酸素濃度3%の低酸素環境下における骨格筋細胞の分化誘導では、骨格筋細胞の分化は遅延もしくは減弱することが確認されたのに対して、10%酸素環境下では分化が促進された。また、MyoD、Myogenin、Myostatinなどの細胞分化を誘導するタンパク質の発現量の変化が関与していることが明らかとなった。人生体を対象とした実験では、吸引酸素濃度が低下するに伴い、安静時およびレジスタンス運動時の筋酸素飽和度は低下した。これらのことから、レジスタンス運動時に吸引する酸素濃度を適切に調整することにより、効果的かつ効率的なトレーニングプログラムを作成することが出来る可能性が示唆される。
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