研究課題/領域番号 |
26560360
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
矢内 利政 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (50387619)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 身体形状 / 水泳 / 呼吸法 / 流体力 |
研究実績の概要 |
平成26年度は光学式3次元身体形状計測法(BLS法)によって得られる身体表面座標データと磁場式動作解析法によって得られる骨格の動作データをフィッティングする方法論を開発した。この方法論は、以下に記す2つのステップからなる。 ①静止立位における身体表面座標データと骨格データのフィッティング:解剖学的肢位をとる被験者を対象にBLS法によって身体表面の形状データの取得を行った。同時に、解剖学的肢位をとる被験者の胸郭、肩甲骨、上腕骨に小型の磁気センサーを貼付することで、骨の位置および方位を計測した。得られた身体表面座標データと骨格データを身体表面形状に表れた特徴点(骨の突起による隆起等)を目印にしてフィッティングさせた。 ②動中の身体表面座標データと骨格データのフィッティング:単純運動を行う被験者について、磁場式動作解析装置を用いてそれぞれの骨格の動作を静止立位からの変位および角変位として測定した。上記①によって設定した各骨座標系にそれらの動きを入力することで、骨格の動作に合わせて変形する身体形状を再構築する方法論を作成した。身体表面の変形は、骨格に近い部分は骨格との相対的な位置関係が変化しないこととし、骨格から遠い部分はその距離に応じて骨格の動きの影響を受けるようにした。この方法により、骨格の動作に基づいた身体形状モデルの定量化が可能となり、形状の自動再現が難しい肩、腋下部、腰部においても、自然な身体形状の再現が可能となった。 定量化した身体形状モデルの妥当性を、実際のビデオカメラ映像と身体形状モデルを比較したところ、皮膚動揺によって体表面に貼付したセンサーと骨との相対的な位置関係が変化した場合、定量化された身体形状モデルに誤差を含むケースがみられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度の計画では、A)静止姿勢における身体表面座標データと骨格データのフィッティング方法の確立、B)単純運動中の骨格データと身体表面座標データのフィッティング法の確立、C)開発された方法論の妥当性検証を予定していた。A)静止姿勢におけるフィッティング法の確立は問題なく終了しており、計画は予定通り遂行されたと評価できる。また、B)単純運動中のフィッティング方法の確立においても、研究計画段階で想定していた方法を試み、骨格の動きに基づいた身体形状モデルの再構築を可能とした。一方で、C)開発された方法論の妥当性検証については、カメラ画像とモデルの整合性を視覚的に確認したのみにとどまったことに加え、皮膚の動揺によるセンサーと骨格の相対位置のずれによって体幹部形状の妥当性に疑問が生じるケースがみられた。 計画段階で想定していた方法論に改良を加える必要性が生じている。改良には、解剖学的なモデル上の骨の長さや体積が一定となるよう骨格位置を補正するなどの方法が用いられる計画である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度には、初年度に引き続き方法論の改良と妥当性検証を行うと共に、開発された方法論を用いた遊泳中の流体力分析に取り組み、腹式呼吸法の導入が遊泳パフォーマンスに与える影響を検証する。 ①静止姿勢における身体形状モデルを用いた浮心・重心位置の推定方法の確立、及びその妥当性の検証 初年度に開発した身体形状モデルを改良し、水中に沈んだ身体の浮心位置と重心位置を推定する方法を確立する。また、推定値を実測によって計測される浮心位置と重心位置と比較することで、水泳選手に作用する浮力の解析に本研究の方法論を使用することの妥当性を検証する。 ②「腹式呼吸法の導入が遊泳パフォーマンスを向上させる。」という仮説の検証 遊泳中の腹式呼吸導入による流体力の変化や遊泳動作の変化が、遊泳のタイム、エネルギー消費などのパフォーマンスに与える影響を検討する。水泳競技者を対象に実験を行う。腹式呼吸や胸式呼吸を導入した際の身体形状を再現する装具を作成し、被験者にはそれらの装具を装着した状態で全力の遊泳を行わせる。遊泳終了後の呼気ガスを分析することで遊泳のエネルギー消費を推定すると共に、タイムの計測を行うことでパフォーマンスの変化を検討する。また、身体形状モデルを用いて遊泳中に作用する浮力を推定し、呼吸法間で比較することで、浮力の変化や動作の変化がタイムなど遊泳パフォーマンスに与える影響について詳細な検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究において、光学式3次元身体形状計測法(BLS法)によって得られる身体表面座標データと磁場式動作解析法によって得られる骨格の動作データをフィッティングする方法論を計画通りに開発し、定量化した身体形状モデルの妥当性を実際のビデオカメラ映像と身体形状モデルを比較した。しかしながら、皮膚動揺によって体表面に貼付したセンサーと骨との相対的な位置関係が変化した場合に、定量化された身体形状モデルに誤差を含むケースが確認された。このようなモデリング上の諸問題に対処するための、高度なコンピュータープログラミング技術を有する人材を確保することができなかったため、妥当性検証が完了しなかったことに加え、人件費として形状していた資金を使い切るにいたらなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度には、初年度に引き続き方法論の改良と妥当性検証を行うと共に、開発された方法論を用いた遊泳中の流体力分析に取り組み、腹式呼吸法の導入が遊泳パフォーマンスに与える影響を検証する。初年度から繰り越した研究費は、開発した方法論の精度を高め、妥当性の高いモデルを構築するための人材を雇用する資金として使用する。
|